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杜に想ふ お屠蘇気分  八代 司

平成29年02月06日付 5面

 全国的にも晴天に恵まれた今年の正月。正月には少々の雪が降る方が風情もあって良いと思ってはゐたが、やはり、例年ほどの除雪をせずに済んだのは助かった。
 私ごとだが、今年は珍しく、生来の筆不精で数年来と無沙汰をしてゐた年賀状を方々に出させていただいた。パソコンで打ち出した宛名はやはり味気ないし、とくに神社関係者の方々にお送りしては、正月でお疲れの時期に返事もさぞ御迷惑だらうと理由づけて長年失礼をしてゐた。当初は気乗りこそしなかったのだが、旧交を温めるといふ意味では、悪筆ながら年賀状といふ正月文化も悪いものではないとあらためて思った次第である。
 さて、正月はまさにわが国の伝統的食文化が凝縮された期間である。地方や家々によって新年の迎へ方はさまざまであらうが、暮れの諸準備から始まり、年越そばや雑煮、お節料理等はすべてが伝統の二文字に集約される。また「お屠蘇気分」との言葉よろしく、朝から酒を飲んでゐても誰も咎める者がゐないのは、酒飲みにとってまさに正月様々である。
 十年程前の暮れ、正月準備のために「お屠蘇」を方々探し求めたことがあった。古くは平安時代、紀貫之の『土佐日記』にも記され、大晦日に数種の生薬を処方して、みりんや清酒に浸して薬酒とし、邪気を祓って長寿を祈り飲む洵に風雅なものである。
 しかしながら、近所の酒屋やドラッグストアで「屠蘇散」を訊ねたが、生憎、置いてないとのこと。仕方なく、地方に住ひする方はお分かりであらうがおほよその物品が揃ふ郊外の大型ホームセンターへゆき、中年の販売員に「屠蘇はどこにありますか?」と訊ね、教へられた売り場へ行くと、そこには何故かペンキ缶が陳列されてゐた。豈図らんや、屠蘇と塗装を聞き間違へられたこれは実話である。
 総じて、おほよその日本人は「お屠蘇とは正月に飲む酒全般」を指し、本来の薬酒とは御存じない方が多いのも事実であらう。
 「おせちもいいけどカレーもね!」の名コピーで、当時のアイドルグループが年末年始の買ひ置き促進のために呼びかけたレトルトカレーのテレビコマーシャルが流れて、早くも四十年の歳月が流れた。近年では、元日から初売りをおこなふスーパーやコンビニエンスストアにより、保存食でもあったお節料理も一般家庭では元日くらゐであらう。
 お節料理は古来縁起物として、洒落や語呂合はせ的なものが多いが、その一品一品それぞれに深い意味がある。古人が例年、変はることなく準備をし、家族揃って新年を迎へられたことを慶びとしたことにあらためて思ひを致した正月であった。年越そばならぬ「年明けうどん」等々、新たな商戦も展開されるなど、正月は毎年、進化してゐる。神社界全体でもなにかしらのコピーを掲げることを一考してはどうかと、「まづ、神棚に初詣」など、お屠蘇気分で拙いコピーを考へてみた。
(まちづくりアドヴァイザー)

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