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論説 『古事記』アンケート 教化活動への活用など連携を

平成29年05月01日付 2面

 本紙既報の通り國學院大學は昨年十一月、文部科学省平成二十八年度「私立大学研究ブランディング事業」タイプB(世界展開型)「『古事記学』の推進拠点形成―世界と次世代に語り継ぐ『古事記』の先端的研究・教育・発信―」に採択された。同事業は、学長のリーダーシップの下で全学を挙げて実施されてゐる著しく個性的な研究を支援するものである。全国の私立大学から百九十八件の申請があり、人文社会学系で世界展開型は、わづかに十校の採択であった。



 國大ではこの事業の一環として今年三月、『古事記』に関する日本人の認知や関心を把握するための世論調査を実施した。本紙今号にも記事を掲載してゐるが、アンケートでは「『古事記』を知っていますか」との質問に「はい」と回答した人の割合は八五%であった。
 『古事記』には神代に遡るわが国の歴史が記録され、そこに記された神々に対する祭祀が全国の神社で今も受け継がれてゐる。斯界にとっては単なる古典ではなく、現在も生き続ける信仰の原点である。さうした点では、八五%といふ数値は望ましい結果である。世論調査での八五%は、「一部を除いてほぼ全員」といっていい数値であり、日本人のほぼ全員が『古事記』を知ってゐる、といってもいいだらう。
 『古事記』を何で知ったかについては、教育機関である「小中高」を選択した者が九割だった。次に多かった「テレビ番組」「新聞」の一割を大きく引き離しての結果だった。選択肢に「神職・神社」が設けられてゐないので推測によるが、「テレビ番組」「新聞」より数値は低いのではないか。
 ところで、教育機関を中心に知った『古事記』の内容は、斯界が知ってほしい内容と一致してゐるのだらうか。「小中高」などで知った『古事記』の内容を具体的に尋ねた設問においては、「稲羽の白うさぎ」(七一%)、「ヤマタノオロチ退治」(六四%)、「ヤマトタケルの物語」(五九%)、「天石屋戸」(五一%)で半数を超えた。しかしながら、「イザナキ・イザナミの国生み」は四割、「神武天皇の東征」は二割ほど、「天孫降臨」は二割に達しなかった。
 内容を知ってゐる『古事記』以外の古典についての質問では、『竹取物語』(七九%)、『源氏物語』(七五%)、『平家物語』(六〇%)に対して、『日本書紀』は二七%にとどまった。『古事記』が周知されてゐることは喜ばしいとしても、知ってゐる神話の内容や古典の総体を見たときに、必ずしも好ましい状況にないことは明らかである。



 調査結果を見てゐると興味深い点に気づく。どの質問でも、高学歴者ほど回答率が高くなってゐるのである。例へば『古事記』を知ってゐると回答した「(旧)高専大・(新)大学」卒業者は、平均を大きく上回って九四%に上るのである。職業別に見ると「事務職」がもっとも高く九二%、地域別では大規模都市居住者が高い。「日本が国際化する上で、日本の神話を学ぶことが重要か」「『古事記』を海外に向けて紹介したいと思うか」でも、高学歴者が最も強い関心を示してゐる。この事実は、ほぼすべての項目に共通してゐるのである。
 大規模都市に住む高学歴者で、事務職や管理職に就く者は、現代社会において神社・神道とは最も疎遠な関係にある。氏神を知らず、自宅に神棚がなく、神宮大麻にも関心を示さない割合が著しく高い。しかしながら『古事記』や神話に関しては、ただ単に「知っている」だけでなく、高い評価を与へてゐるのである。彼らは、『古事記』の内容を学ぶのによい方法として教育機関とともに「絵本・漫画」「テレビ番組」「アニメ・ゲーム」を高く評価してゐる。伝承地を巡るときに役立つのは、ガイドブックの他に「専用アプリ」の利用であると回答してゐる。かうした点を今後の教化活動に繋げることはできないだらうか。



 古典の研究に関しては、皇學館大学で『日本書紀』熱田本の史料的研究が始まってゐる。神社本庁や各神社庁をはじめ関係諸団体では、教化活動のための数多くの資料を用意してきた。それぞれの機関が連携を取り合って、古典の研究・普及のための運動を展開していくことが望ましい。新しいメディアの積極的な活用なども大いに期待されるところである。

平成二十九年五月一日

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