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論説 特例法案を機に皇室制度研究の更なる充実を

平成29年06月05日付 2面

 去る五月二十六日の神社本庁評議員会で、「皇位継承の制度について、具体的な議論が重ねられてゐる今日、御即位三十年を言祝ぎ、今上陛下への敬愛と感謝を表しつつ、一層の皇室敬慕の念を醸成するやう、神社本庁に要望するの件」が提出された。
 今上陛下の「御即位三十年」を奉祝して陛下への敬愛・感謝の念を表したい国民の願ひを充分に考慮して、今国会での「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案」を審議してもらひたい。その声が国会の審議に的確に反映されるやうな対策(斯界主導の国民運動など)を本庁は講じるべき、といふ趣旨の洵に時宜を得た提案である。
 特例法案は仮令「一代限り」としても、近代的皇室制度の根幹に関はる皇位継承制度に重大な変更を齎す法案である。法案の内容を主に歴史的観点から精査し、修正すべき点があれば、国会のみならず広く国民各層に訴へ、理解・共感を得るやう努力するのが本庁の今なすべきことである。その意味で、本紙三三五三号の所功氏の「上皇后」などの称号、あるいは「譲位の時期と儀式」に関する論考など参考にして、これまで本庁が蓄積してきた調査・研究に基いた修正点の指摘や提言を神政連などと連携して発信することは、今上陛下の「御即位三十年」奉祝の観点からも十分意味のある現実的施策と言へよう。



 皇位継承制度を始めとする体系的かつ個別的な皇室制度の在り方については、これまでにも様々な調査・研究がなされ、その成果をもとに具体的施策として政治的にも社会的にも影響力のある運動を展開してきた。皇位と不離一体の関係にある神宮の制度是正運動、あるいは皇位継承に伴ふ元号の法制化運動等は、その代表的事例である。
 かうした運動が効を奏するには、運動に資する精緻な調査・研究が必要不可欠である。そのことは、昭和二十九年刊行の神社新報社政教研究室編『天皇・神道・憲法』を読めばわかる。同書は以後の斯界における幾多の国民精神恢復運動の原点となった。
 だが、同書にも時代の制約があることも事実である。例へば、葦津珍彦が元皇族の復籍に言及して「元皇族の復籍と云ふことは決して望むべきではないと考へられる」と述べてゐるのも、当時の皇室の「構成」からすれば無理もないことである。この言を楯に自説の補強材料として引用する向きもある昨今、「変節」と「変説」の差異を峻別しつつ、「天皇国日本」の真姿実現の為に一生を捧げた葦津の皇室制度論を如何に歴史的かつ現実的に評価するかも現時点での重要な研究テーマであらう。



 葦津のいふ「天皇国日本の真姿」とは何か。それは「天皇が日本国の本来の統治者として仰がれて来たと云ふ事実と、天皇が日本国の象徴たりし事実とは、不可分の関係」にある国家としての日本である。そのやうな「日本国」に相応しい憲法と皇室制度の実現。これを求めて葦津は同志とともに調査・研究を重ね、『天皇・神道・憲法』へと結実させた。それは時代の制約を受けつつも、制約を乗り越えるべき基本的方針を指し示してゐる指南書である。
 以後、この方針は何度も歴史(時局)の試煉に直面したものの、その度ごとに再確認と更なる調査・研究が積み重ねられ、より実践的で確乎たる方針へと鍛へられていった。特に、小泉内閣当時に「皇室典範改正」に名を借りた「女性天皇・女系天皇」制度導入が目論まれた時期は、その最たる試煉に直面した一劃期であった。



 当時、本庁教学研究所や神社新報社の若手・中堅職員が中心となって皇室制度の歴史的理論的な調査・研究に打ち込み、平成十七年三月の「皇室典範改正に関する神社本庁の基本的な姿勢について」及び同年十二月の「皇室典範改正問題に関する神社本庁の基本見解」に資すための基礎的作業を遂行したのである。
 その活動等を纏めた資料集には「譲位」を除く皇位継承に関する多様な調査・研究の成果が掲載されてゐる。昭和六十二年に神社新報社から刊行された『現行皇室法の批判的研究』(皇室法研究会編)ともども、斯界が現在及び将来の「在るべき皇室制度」を考へる上で必須の文献である。
 本庁や神政連が推進・展開する皇室の尊厳護持運動には、その基礎となる強固な理論がなければならない。今や皇室制度をめぐる問題の深刻さは昔日の比ではない。特例法案を機に、現在を見据ゑて将来を照射し得る皇室制度研究の更なる充実・深化が強く望まれる所以である。

平成二十九年六月五日

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