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論説 立秋に思ふ 祭礼、祭りの意義確認を

平成29年08月07日付 2面

 本紙今号の発行日は、秋の始まりを意味する二十四節気の一つ、立秋にあたる。
 暦の上では秋の始まりとはいへ、列島各地はとても「残暑」とは呼べないやうな厳しい暑さがまだまだ続いてゐる。この時期、各地ではわが国の夏祭りを象徴するともいへる祇園祭を終へ、夏越の大祓としての茅の輪くぐりなどをおこなふ神社も多い。また月の半ばともなれば、古来の祖霊信仰に基づく月遅れ盆のさまざまな行事が執りおこなはれることとなる。



 このうち各地で夏の風物詩ともなってゐる祇園祭は、清和天皇の御代にあたる貞観十一年(八六九)、疫病退散を願って営まれた祇園御霊会が淵源とされる。京都・八坂神社における祭礼は、本来の禊祓の神事に壮麗な山車や鉾の巡行、囃子や風流踊りなども加へつつ広く地方へと伝播し、現在では全国の八坂社や須賀社、津島社など各地の神社でも同様の行事が執りおこなはれるやうになってゐる。
 昨年十二月には、「京都祇園祭の山鉾行事」を含む三十三件の祭礼行事が「山・鉾・屋台行事」としてユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の無形文化遺産に選ばれた。この三十三件の構成要素のうち半数近くは七月・八月に執りおこなはれるもので、各地の祇園祭も複数含まれてゐる。今年は登録されてから初めての祭礼行事を迎へ、それぞれ例年以上の盛り上がりを見せてゐるやうで、今後のさらなる賑はひに期待したい。



 この「山・鉾・屋台行事」の構成資産の一つでもある「日田祇園の曳山行事」を伝へる大分県日田市は、先月初旬の九州北部豪雨で死傷者を出すなど甚大な被害があった。今年はさうした被災の影響から関連行事の「集団顔見世」を中止したものの、「災害や悪疫を祓ひ安泰を祈念する」といふ神事の趣旨に鑑み、またなにより復興に向けた契機とすべく、本祭りは例年通りに実施したといふ。日田市ではかねて、向後百年間に亙り山・鉾・屋台の車輪の材として使用するため、関係者らが赤松の植樹活動をおこなってゐる。無形文化遺産登録を決めた政府間委員会の決議文においてもこのことに触れてゐるが、環境にも配慮した持続性の確保のための好例として特筆されるべきであらう。
 決議文ではこのほか「山・鉾・屋台行事」について、コミュニティのすべての人々が集まって平和や厄災防除を願ふ文化・社会的慣習、儀礼及び祭礼行事と捉へ、伝承者や実践者にアイデンティティや持続性、芸術的創造性を与へるものとして評価。またかうした行事が、東日本大震災の影響からのコミュニティの恢復に貢献したことにも言及してゐた。
 「山・鉾・屋台行事」に限らず、全国各地に伝はる多様な祭礼行事が、今後とも地域の人々の紐帯を継続的に強化するとともに、水害や震災などの自然災害をはじめ、さまざまな困難に立ち向かふ勇気を与へるものともなることを切に願ふものである。



 をりしも今年七月からの三カ年継続となる神社本庁の教化実践目標においては、「家庭のまつりと地域のまつりの振興を目指して」との主題のもと五項目の目標が示され、その一つとして「祭祀の厳修と振興を図り、祭礼行事を通して地域社会の活性化に努める」ことが掲げられてゐる。共同体意識、さらには氏子意識の稀薄化が叫ばれるやうになって久しいが、過疎化・少子高齢化などの課題を抱へる地域社会において、さらには自然災害などからの復興に際し、祭礼行事が果たす役割は大きく、それは他に類を見ないかけがへのないものではなからうか。
 神社における祭礼等は、冒頭で触れた夏越の大祓や月遅れ盆のやうな行事も含め、日常生活を超えた広がりや、過去と将来を含む世代を超えた深みをともなひつつ、地域社会や家庭において構成員たる人々をさまざまな形で結び付けてきた。かうした歴史・伝統に裏付けられた神社・神道の働きは今後も常に不変であり、それは絢爛豪華な祇園の祭礼から、村の小さな鎮守における収穫感謝の秋祭りに至るまで、いづれにおいても同様であるだらう。
 夏から秋へと暦がめぐるなか、神社の祭礼行事、祭りの持つ意義を改めて確認したい。

平成二十九年八月七日

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