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論説 皇位継承儀礼の本義 本庁の基本的姿勢に寄せて

平成29年08月14日付 2面

 「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」が六月十六日に公布され、公布日から三年を超えない範囲内で今上陛下が譲位されることになった。
 譲位に関しては、本紙前号と今号での皇學館大学・佐野真人氏による古代の譲位に関する論攷や、暑中特別号での光格天皇の譲位に関する解説記事で歴史的事実を整理してきた。天皇が譲位される際には種々の儀式が執りおこなはれてゐたことが分かったが、その中で不可欠な要素は「譲位宣命の宣制」と「剣璽の渡御」であったといへる。

 もとより、皇位の「御しるし」である「剣璽」の「渡御」が重要な儀礼であることはいふまでもない。ただ、崩御に伴ふ皇位継承の際にも「剣璽の渡御」はあることから、譲位に伴ふ皇位継承を考へるには「譲位宣命の宣制」こそが核心となることは明らかであらう。
 歴代天皇の譲位の宣命を見るに、冒頭には「明つ神と大八洲国知ろしめす天皇が……聞食せと宣る」といふ定型の表現が見られ、次いで譲位に至った天皇の「お気持ち」が示される。その「お気持ち」は各天皇で異なるが、主に菲徳・薄徳といった謙遜の「お気持ち」などが表現されてゐる。譲位は天皇の「皇位を皇嗣(皇位継承者)に譲る」との意思を前提とするため、宣命には天皇の譲位に至る「お気持ち」が述べられてゐるのである。

 去る七月二十一日、神社本庁は「『天皇の退位等に関する皇室典範特例法』に関する神社本庁の基本的姿勢」を公表し、同日、神道政治連盟会長談話も発表された。昨年八月八日の「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば」発表から間もなく一年といふ中で出された「基本的姿勢」では、「退位」ではなく「譲位」の語を用ゐるとの立場をとる。たしかに律令(儀制令)では「太上天皇。譲位の帝に称する所」と「譲位」の語を用ゐ、佐野氏も指摘するやうに、「退位」が「廃位」と同義で用ゐられてゐたことからも「譲位」が正しい皇室用語であり、神社本庁の立場は皇室の歴史・伝統に適合してゐるものといへよう。
 また「基本的姿勢」では御代替りに関する諸儀式は旧登極令等に準じるべきことと、譲位について皇室の先例を考証し、国家的重儀として執行することとを求めてゐる。平成の御大典は、皇位継承儀礼を践祚・即位礼・大嘗祭・大饗の四大眼目に分けた旧登極令に準じて執行され、践祚の儀たる「剣璽等承継の儀」と「即位後朝見の儀」が国事行為として執りおこなはれた。そして譲位の先例である光格天皇の事例を踏まへると、皇嗣が恵仁親王(仁孝天皇)と定められた上で、譲位が新帝の受禅(践祚)と一体の儀式として執行されてゐる。皇統の連続性そして譲位と践祚とが不可分の関係であることに鑑みれば、譲位の儀式も皇室典範第二十四条で定めるところの「即位の礼」の中の一つの儀式として位置づけられ、国家的重儀として執行されることが相応しい。さうしたことは、神社新報社に置かれてゐる「時の流れ研究会」が見解の一部として指摘してゐることでもある。

 神社本庁では昨年八月の「おことば」以来、研究会等を重ねて地道な調査・研究を続けてをり、「基本的姿勢」もその成果が反映されたものであらう。そもそも、「伝統を重んじ、祭祀の振興と道義の昂揚を図り、以て大御代の彌栄を祈念し、併せて四海万邦の平安に寄与する」ことを「神社本庁憲章」として掲げる神社本庁において「大御代の彌栄を祈念」することの重要性は不変かつ自明であり、「基本的姿勢」はさうした神社本庁のこれまでのあり方を確認するものともいへるだらう。
 御代替りに関する諸儀式が皇室の先例を踏襲しつつ、国家的重儀として執行されることは斯界関係者共通の願ひである。旧登極令の制定過程で当時の叡智を結集した調査・考証がなされたことに鑑みれば、譲位の儀式を考へるに際しても斯界関係者の叡智を集め、古儀と新儀の調和した現代に相応しい皇位継承儀礼の形を要望していきたい。また神政連会長談話が指摘するやうに「女性宮家の創設」に関する議論にも引き続き注視が必要である。
 まづは今回発表された神社本庁の「基本的姿勢」を広く共有するとともに、皇位の安定的継承に向けた運動の展開のためにも斯界の大同団結が求められる。
平成二十九年八月十四日

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