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論説 祈年祭を迎へて 稲作文化の振興に向け啓発を

平成30年02月12日付 2面

 五穀豊穣を祈願する祈年祭が、今年も二月十七日に宮中や神宮をはじめ全国各地の神社で斎行される。
 来年には、新帝によって御一代に一度おこなはれる新嘗祭である大嘗祭が斎行される見通しで、そのための斎田を決める悠紀国・主基国の点定がおこなはれることとなる。今上陛下御即位の時には、平成二年二月八日に斎田点定の儀があり、十一月十二日の即位礼の後、二十二日から二十三日にかけて大嘗祭が斎行された。今回は、憲政史上初めてとなる御譲位の日が事前に確定したなかで、皇位継承に伴ふ一連の諸儀式の日程等が決められることから、政府の式典準備委員会の今後の検討内容を注視していかねばならない。
 加へて今年は、米の生産調整の廃止といふわが国農政の重要な転機にあたる。各神社・神職においては今年の祈年祭をきっかけに、来年の斎田点定に始まる大嘗祭を見据ゑつつ、わが国の主食の米をはじめ農業の現状と将来について認識を深め、祭儀の意義の一層の啓発をおこなっていかねばならない。


 日本人の主食用米の消費量は、年間約八万トンベースで減少してきた。一人当たりでみれば、昭和四十年代を境にパン食や麺類などの普及により米の消費減は著しくなり、今では当時の半分以下にまで落ち込んでゐる。生産調整による減反政策をこのまま続けていけば、既存農家の収入は減る一方で、大規模化による経営の効率化も阻碍されて農業の発展性は望み難いともいへるだらう。
 政府はこれまで補助金を出して農家を保護するとともに、業務用米や家畜のエサとなる飼料用米、さらに大豆やそのほかの作物への転作も奨励してきたが、なかなか効果は出ない。それでつひに、平成三十年産米から生産調整を廃止し、主食用米農家への補助金も取り止めることに踏み切ったのである。その結果、農家や農業生産法人は、米の品種から生産量の目標まで自らが決め、販売も農協を通さずに業者や消費者と直接に契約し得ることになり、そこに競争原理が働き、市場志向の農業が一段と促進されることになった。わが国における農政の大きな転換といはねばならない。


 問題は、今後いかにして主食の米の需要を恢復・拡大し、農業生産の競争力を強化していくかである。この問題については神道政治連盟においても、神社の祭りと関係の深い稲作農業の振興を目指し、主食の米の消費需要の減少に歯止めをかけて拡大を図るべく、米粉の利用促進と学校給食や地域での地産地消の運動などを事業計画として掲げてきた。米粉は、ほとんどが輸入の小麦粉に代へて、パンやうどん、パスタ、天ぷらの衣などにも使へる。その利用拡大には自治体や業者への働きかけが重要で、また和食ブームが広まるなか、米の海外輸出の積極的拡大を目指すことも大事である。
 安倍晋三政権は農産物全体の輸出拡大を目指すとともに、農協の改革にも努めてきた。休耕農地の集約による規模拡大への道も開き、民間企業の参入を認めて農業経営の法人化を進め、生産・加工・販売を一括しておこなふいはゆる農業の六次産業化も促進させた。神職はかうした状況をも把握しつつ、神代から受け継がれる稲作によって育まれてきたわが国の伝統文化について、さらなる啓発をおこなふことが肝要なのだ。


 新嘗祭の精神の復興を目指し、「農山漁村資源開発協会」(平沼赳夫会長)が毎年開催してゐる「新嘗祭を祝う集い」では、例年、新嘗祭に関する講演がおこなはれてをり、天皇陛下が皇居で毎年、御親ら種播きからお田植ゑ、お稲刈りをされ、新穀を神前にお供へされて神恩感謝の祭祀を執りおこなってをられる事実を初めて知った参加者は、ひじょうに新鮮な驚きを感じるといふ。農家の一人は、これまで消費者のことしか頭になかったが、天皇陛下が国家・国民のために実際に稲作までされてをられることを知り、米づくりの真の意味が分かって元気付けられたと語り、また跡継ぎの子息が帰ってきたので株式会社化を考へてゐたといふ大規模農家の一人は、新嘗祭の精神をぜひ新しい会社の経営理念として掲げ、社員で祭祀をおこなっていきたいと話してゐた。
 かうした効果はひじょうに貴重なものであり、神職の啓発活動にも有意義な示唆を与へるものではなからうか。
平成三十年二月十二日

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