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杜に想ふ 彩に思ふ 須浪伴人

平成30年04月02日付 5面

 世の中はさまざまな色で溢れてゐる。四季折々には特徴的な色を思ひ浮かべる人も多いことだらう。これからの季節なら差し詰め桜色か。人によっては人事異動で漆黒の闇を見てゐるかもしれないが。
 この色といふもの、誰もが同じやうな色彩で世界を見てゐると思ってしまひがちだが、実際には国によってかなり違ひがあるらしい。人種などの生物学的な違ひだけでなく、日本人かイギリス人かといった文化的な違ひも色の見え方に影響するといふのだから驚きだ。
 例へば太陽。美空ひばりの歌にもあるやうに、日本人にとっての太陽は真っ赤に燃えてゐる。ところがイギリスやアメリカなど欧米の文化圏では主に黄色や金色で表現される。世界的に見ても太陽を赤で描くのは珍しいやうだ。
 月の色も同様に違ってゐる。書店に並ぶ絵本を御覧いただければわかりやすいが、日本では主に黄色を使って描かれてゐる。これが欧米諸国では白くなる。色鉛筆などを使って描く際に白といふのはなかなか難しいのではないかと思ふのだが、そこは子供たちの創造力でなんとかなるのだらう。
 色については最近、カラーユニバーサルデザインといふものがある。カラーバリアフリーとも呼ばれるそれは、誰にとっても見えやすい色の使ひ方、とでも言ひ換へれば良いだらうか。
 とある調査によると、先天的に色の感じ方が異なる人は、日本人男性で約五パーセントださうだ。割合だけで見ると少なく感じられるが、具体的に三百万人と言はれると、その多さに驚かされる。男性だけだと思はれがちだが、実際には女性も〇・二パーセントの割合でゐる。つまり、程度の差はあれ、世界を異なった彩で感じてゐる人は思った以上に身近にゐることになる。
 ここで問題になるのは、残りの九十五パーセントがさういった感覚の違ひに気付いてゐないといふことだ。恥づかしながら、かく言ふ自分自身も友人の話を聞くまで色の感じ方に違ひがある可能性をまったく気にしたことがなかった。
 考へてみれば、神職にしろ翻訳家にしろ、受け取り手にどう伝はるかといふことに細心の注意を払はなければならない職業だ。祝詞なら祈願者の思ひが神々へ、翻訳なら筆者の考へが読者へと、それぞれ誤解なく伝はるやう言葉や表現を選ばなければならない。
 週末、満開になった近所の桜を見ながら、春めいた日差しの中を散歩した。自分の目には「桜色」に移るこの景色が、友人の目にはどのやうな彩で映るのだらう。さすがに桜にまでカラーユニバーサルデザインを要求することはできないが、せめて自分は他の人の感じ方を大切にしたいと思った。
(神職・翻訳家)

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