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論説 新年度を迎へ 個性と協調の調和した人材を

平成30年04月02日付 2面

 新年度を迎へ、各地で入学式や入社式などがおこなはれる時節となった。
 今年の冬は強い寒気に見舞はれて全国的に気温が低く、とくに北陸地方を中心に記録的な大雪となった所もあるなど、春の訪れを待ち焦がれる人々も多かったのではないだらうか。さうした思ひが届いたのか、桜の開花は例年よりかなり早目で、気象庁によれば前年と比べて十日以上も早く開花した地域も多くあったといふ。
 本紙今号に掲載してゐる通り、桜が花開くなか國學院大學・皇學館大学で卒業式が執りおこなはれた。さらに四月に入り、両大学を含め全国各地の神職養成機関ではそれぞれ入学式が執りおこなはれてゐる。この春、人生の新たな一歩を踏み出す若者たちが、今の清新な気持ちや希望を忘れることなく、今後とも、それぞれの道を順調に歩み続けられることを心より祈念するものである。


 広く一般に目を向ければ、いはゆる就職氷河期はすでに過去のものとなり、先日の厚生労働省と文部科学省の発表によれば、今年の大学卒業予定者の就職内定率は調査開始以降の同時期で過去最高の九一・二%になったといふ(二月一日現在)。もちろん、すべての学生が必ずしも当初から望んでゐた通りに就職先が決定したわけではないであらう。また、八・八%の学生に関しては、就職を希望しながら今だ内定を得られてゐないといふ状況もある。さらに労働環境全般を見れば、早期離職や時間外労働、非正規雇用者の処遇、労働人口の減少などさまざまな問題があり、決して楽観はできないだらう。
 斯界における奉職状況については、各養成機関それぞれの概要を例年本紙で紹介してゐる。かねてから女子神職の奉職の厳しさは課題として挙げられてをり、また、学生の奉職希望先が比較的首都圏に偏りがちになるなど、神社からの求人すべてに応じられない場合もあるといった事例も仄聞する。
 「神明奉仕」との言葉がよく使はれるやうに、神職にとって神社で働くことは単なる「労働」ではない。それは神々に仕へ奉る「奉仕」であり、極めて尊いものであることはいふまでもない。奉職にあたってはさうしたことにも十分に留意し、その尊さを自らの誇りとしてこれからの日々を送ってほしい。


 本庁憲章にあるやうに、神職は「ひたすら神明に奉仕し、祭祀を厳修」することを使命とする一方、神社が職員や総代を含めた多くの人々の支へによって護持されてゐることも忘れてはならないだらう。価値観の多様化がいはれて久しく、必ずしも「当たり前」のことが「当たり前」に通用しないことも少なくないとも感じられる昨今、神社をめぐる人々との関係性や信頼関係の構築も決して容易ではない時代になったといへるのではなからうか。
 さうした人間関係においては一定の協調性が求められるが、一方で、それぞれが遺憾なく個性を発揮することで、所属する集団・組織の活性化も図られる。自己の考へに固執して極端に協調性を欠くやうでは困るが、何らの主義・主張もなく安易に他に追随するやうな姿勢にも問題はあるだらう。個性の重視による組織の活性化か、もしくは協調を重視した組織の維持か。そのどちらを優先するのかはそれぞれ意見の分かれるところだが、そもそも両者は必ずしも相反するものではないのではなからうか。至近な例を挙げれば、終戦直後の混乱期に多様な信仰のあり方を有する神社界がゆるやかな連合体を目指して神社本庁を設立し、今日までの発展と安定の基礎を築いたことは紛れもない歴史的事実であらう。


 神道精神について、「主体性を保持した寛容性と謙虚さ」と現代的に捉へ直した表現も聞かれるやうに、主体性を欠いた単なる附和雷同や、狭量に我を押し通すのではなく、なにより個性と協調との双方の尊重、さうした調和こそが組織にとって重要であらう。神職養成機関での教育、また新卒者を受け入れる神社、さらには神職それぞれの日々の奉仕において、さうした個性と協調の調和を大切にすることが、斯界全体の人的資源の充実と底上げにも繋がると信じるものである。
 この春、希望を抱いて新たな道を歩み始めた学生や新卒奉職者のため、また何より斯界の将来のためにも、さうしたことを広く共通認識としたい。

平成三十年四月二日

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