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論説 田植ゑの季節に 稲作継承の意義を考へる

平成30年06月11日付 2面

 本紙今号に掲載の通り、天皇陛下には五月二十五日に皇居内の生物学研究所脇の水田でお田植ゑをおこなはせられた。例年秋には御親らお稲刈りに臨ませられ、収穫された稲は伊勢の神宮の神嘗祭と、宮中での新嘗祭に供へられてゐる。
 また本紙編輯部にも各地から「お田植祭」斎行の記事が届いてゐる。都市部などでの暮らしにおいては縁遠いものとなってしまったが、早苗が初夏の穏やかな風にそよぐ光景を思ひ、その無事なる生育を願ひつつ秋の豊かな稔りを心待ちにしたい。
 神話に記された天孫降臨に際しての三大神勅の一つとして「斎庭の稲穂の神勅」があるやうに、わが国において米作りは国作りと同義ともいへ、それが神祀りたる祭祀の中核に位置付けられてきた。稲作は神話にまで遡るわが国の歴史において、祖神の神意として、さらには先人たちの営みを象徴する生活の根本原理として連綿と受け継がれてきたのである。
 しかし戦後は高度経済成長にともなふ産業構造の変化等のなかで農業従事者は減少の一途を辿り、近年はかねてからの少子高齢化や過疎化も相俟って農村の疲弊がさらに進行。国際的な競争力向上を含めた生き残りのための合理化・企業化などが要請されるなか、農業をめぐる環境も変容を余儀なくされてゐる。国を支へる農業の重要性は今なほ不変ではあるものの、多くの人々の実生活においては稲作をはじめとする農業がいよいよ疎遠になり、また関心もより稀薄になってゐるといへるのではなからうか。



 このわが国と稲作との関係については昨年、日本青年会議所が二月十一日の「建国記念の日」の認知度向上のためとして「おむすび」の提供を企画し、「日本の建国を祝う会」が中央式典を開催してゐる東京・明治神宮会館と、初代・神武天皇を奉斎する奈良・橿原神宮において、式典や祭典への参列者などへの配布活動を実施した。今年はこの活動に神道青年全国協議会が呼応し、斎庭の稲穂の神勅を戴くわが国の稲作、さらには食文化の象徴に「おむすび」を位置付け、日本青年会議所との連携の上で各地の社頭等での「おむすび」配布をおこなった。
 一方、事前に報道でかうした取組みを知った佐賀のある神社では、「建国記念の日」に日本の伝統を改めて考へ、さらには米の消費拡大にも繋がればと地元の農協に働きかけ、神社での「建国記念の日」奉祝式典の際に「おむすび」を配布したといふ。天孫降臨から繋がる神武建国を偲ぶ「建国記念の日」における一つの取組みとして、他団体や地域との連携を含めたさらなる活動展開の広がりに期待をしたいものである。



 かうした時代のなかにおいて、宮中では天皇陛下が稲作をお続けになられてきた。平成二十一年の御結婚満五十年に際しての会見においては、「私は昭和天皇から伝はってきたものはほとんど受け継ぎ、これを守ってきました。この中には新嘗祭のやうに古くから伝へられてきた伝統的祭祀もありますが、田植ゑのやうに昭和天皇から始められた行事もあります。新嘗祭のやうに古い伝統のあるものはそのままの形を残していくことが大切と考へますが、田植ゑのやうに新しく始められた行事は、形よりはそれを行ふ意義を重視していくことが望ましいと考へます。したがって現在私は田植ゑ、稲刈りに加へ、前年に収穫した種籾を播くことから始めてゐます」と仰せられてゐる。
 農業をめぐる環境の変化のなかで、稲作の意義をいかに認識して何を伝へていくのか、古来、稲作との深い関はりのなかで続けられてきた祭祀に携はる神社関係者として、陛下の大御手振りに倣ひつつ考へていきたい。



 来年は御代替りに伴ふ一代一度の新嘗祭とされる大嘗祭が執りおこなはれる。この大嘗祭に先立ち悠紀国・主基国が亀卜により点定され、新たに造営される大嘗宮において、両国の斎田で収穫された新穀が供へられるのである。
 大嘗祭をはじめ皇位継承に関はる諸儀式が古来の形を護りつつ国家的重儀として執行されるなかで、わが国において稲作が続けられてきたことの意義を改めて考へ、さらには、さうした国柄の継承に向けた啓発の大切な契機とすべく、今からしっかりと準備を取り進めていきたい。

平成三十年六月十一日

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