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杜に想ふ 風雨と祈り 八代司

平成30年10月08日付 5面

 今年の台風は七月の西日本での豪雨から始まり、十月になっても発生が続き、例年以上に猛威をふるってゐる。しかも、いづれもが記録的な規模とのことで、連続する風雨に悩まされた被災者の方々には心身ともにお疲れのことと、心よりお見舞ひを申し上げます。
 さて、この夏、三十年来の宿願であった能登半島に伝はる「鎌祭り」を奉拝することができた。祭りの本旨は、風を切るとされる鎌をタブノキの幹に打ち付け、御神威によって悪しき風を切って害がないやう祈るもので、風の神、諏訪神社の縁日である八月二十七日に毎年斎行される。折悪しく叩きつけるやうな雨のなか、石川県七尾市の江泊町日室地区に鎮座される諏訪神社へと向かった。
 市街地から離れた山間でカーナビも表示されなくなるなか、参道口に着いた頃には御神慮によって、やうやく雨も上がり陽も射し始めた。山道は祭りのため数日前に綺麗に草刈りをされてゐたが、スーツに革靴であったためよく滑り、少々難儀はしたものの、しばらく登ると山中の神社へと辿り着いた。
 もとより本殿がなく古風な形態で、社殿の奥には数本のタブノキが立ち、打ち付けられた無数の赤錆びた鎌は幹から生えだしたやうでもあり実に不思議な光景であった。往昔は山中の街道筋に鎮座されてゐたが、牛馬による不浄を避けるために現在地へ遷座されてをり、その正確な時期は不詳といふ。鎌には雌雄一対とされる魚の図柄が刻まれ、農業のみならずとくに漁業においても風害がなく豊漁にとの祈りも籠められてゐるとのこと。風雨が順調であることは諸産業においても重要なことと得心し、祭りの奥深さとともに、過疎に悩みながらも祭りを続ける氏子の方々の、素朴で実直にして真摯な祈りを感じた。
 また翌々日、縁あって岡山県倉敷市真備町での水害復興支援に出向される北陸の神職の方々に同道させていただいた。被災された艮御崎神社周辺では緩やかな川水の流入だったため、遠くからの一見では被害の程がわかりづらかったが、屋根まで到達した川水の被害は極めて甚大だった。宮司さんと総代さんに被災時のお話を伺った後、拝殿と隣接する社務所では、神輿や太鼓、神具の納められた木箱にも微塵の川砂が入ったため、殿内の拭き掃除や土砂除去、神具の洗浄作業をさせていただいた。そのなかで安政六年と墨書された木箱からは、ガラス製の玉眼が嵌められて作者銘も刻まれた立派な木彫の獅子頭と、金糸で龍の刺繍が施された附属の獅子舞の胴布等があらたに確認され、保存のためにも文化財調査を勧めさせていただいた。
 片付け中の社務所の長押には御当地出身の犬養毅元首相による「至誠通神」との流麗なる揮毫額が掲げられてゐた。「氏子の方々が一様に被災され避難生活をされてをり、神社だけが先に綺麗になるのは忍びない」からと復興支援活動を遠慮されてゐた心持ちを漏らされた宮司さんの一言が胸に響いた。
(まちづくりアドヴァイザー)

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