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論説 稔りの秋に 神々への感謝と畏敬の念を

平成30年10月22日付 2面

 神宮での神嘗祭にあはせ、お膝元の神都・伊勢では十月十五日に第四十七回「初穂曳」が賑やかにおこなはれた。
 地元の旧神領民をはじめ、全国の神社関係者など約三百人も特別神領民として参加し、全国から寄せられた初穂を載せた奉曳車を曳き、神嘗祭の奉祝気運に満ち満ちた市内を賑やかに練り歩いて新穀を神宮へと献納した。
 昭和四十八年の第六十回神宮式年遷宮を契機に、神宮に初穂を捧げて神恩に感謝するとともに、式年遷宮における「お木曳行事」と「お白石持行事」の伝統継承を目的に始められたこの行事。現在、特別神領民のうち希望者は外宮での由貴夕大御饌を奉拝することができ、浄闇のなか厳粛に斎行される祭典の雰囲気を体感する貴重な機会ともなってゐる。
 伊勢での遷宮行事の伝統継承に加へ、全国の神社関係者においても、次期式年遷宮の奉賛や神宮大麻の奉斎と頒布、さらには参宮促進などを含む神宮奉賛の心の継承と、その裾野拡大に向けて、今後ともより多くの参加が期待されるところである。



 本紙既報の通り、天皇陛下には九月十二日、皇居内の生物学研究所脇にある水田でお稲刈りをおこなはれ、四月の御播種以来、御親ら大切にお育てになられてきた稲をお刈取り遊ばされた。神宮の神嘗祭にあたっては、その稲穂も根付のまま奉られてゐる。
 今上陛下には御即位後、先帝陛下が始められたお稲作りを受け継がれ、平成の御代を通してお続けになられるとともに、春のお田植ゑ、秋のお稲刈りに加へて、お田植ゑに先立ち稲種をお播きになる御播種の新例も開かれた。また、来年は御代替りにともなふ御一代一度の大嘗祭が予定されてをり、祭儀に先立ち悠紀・主基の両地方が亀卜によって点定され、その斎田で収穫された新穀が新たに造営される大嘗宮での祭儀において奉献されることとなるのである。
 戦後の産業構造の変化に伴ひ農業従事者が激減し、稲作と関はる祭祀の意義に対する認識が稀薄化するなかにおいても、陛下にはお稲作りを続けられ、常に神々への祈りを捧げてこられた。我々もまた、さうした大御手振りに倣ひながら、わが国における稲作と神事との関はりを踏まへ、そのやうな信仰を今後も連綿と受け継いでいくことの尊さに改めて思ひを致したい。



 一方、農林水産省ではこのほど、「平成三十年産水稲の作付面積及び九月十五日現在における作柄概況」を公表した。その発表によれば、十アール当たりの平年収量に対する今年の予想収量の比率を表す「作況指数」は、北海道で六月中旬から七月中旬までの低温・日照不足による影響が見られたため「不良」の「九〇」に止まるものの、全国的には「平年並み」の「一〇〇」になるといふ。記録的な暑さに見舞はれ、自然災害の相次いだ今年ではあるが、現状、水稲に関しては全国的には「平年並み」の作柄が期待できることに、まづは安堵し、感謝の誠を捧げたい。
 もとより、各地の農家では必ずしもかうした数値には表れない多くの影響があり、例へば七月豪雨による農林水産関係の被害総額は農作物や農地・農業用施設関係を含め三千億円(農水省発表、六月二十八日からの被害集計。十月九日現在)にも及ぶといふ。稔りの秋にあたり、常に自然に対する感謝と畏敬の念を忘れないことを改めて誓ふとともに、全国各地の被災地の早期復興を祈りたい。



 年間千五百回にも及ぶ神宮での恒例祭のなかでも、最重要の祭典といはれる神嘗祭に際し、また全国から寄せられた新穀を奉献する初穂曳にあたり、神々に祈りを捧げながら稲作を続けてきたわが国の国柄に思ひを致し、さうした精神を継承していくことの大切さを改めて訴へていかねばなるまい。
 また、甚大な被害のあった北海道胆振東部地震の被災地においては、稔りの秋が深まれば、寒さ厳しい冬の訪れとなる。当地の神社では降雪への対応、そしていかに新年を迎へるかが喫緊の課題になってゐるといふ。日々の営みが恙なきやう願ひ、常に神々に感謝の祈りを捧げてきたわが国の伝統は、いかに産業構造が変化しても不易であらう。地域の精神的な核である神社として、常に人々に寄り添ひながら、その祈りの場であるやう努めていきたい。

平成三十年十月二十二日

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