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【新刊紹介】関心の昂りを見せる天皇 二冊の纏まった研究書が

平成30年10月29日付 6面

 平成二十九年六月九日に成立した「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」により、今上陛下には三十一年四月末日を以て譲位、上皇の御位に就かれることとなったわけであるが、それに伴って俄に注目を集めたのが「最後の上皇」光格天皇(明和八年〈一七七一〉~天保十一年〈一八四〇〉)である。
 江戸も後期になる安永八年(一七七九)に即位されたこの天皇については従来研究が本当に少なかったこともあり、譲位を目前にして、各地で皇位継承に関するシンポジウム、講演会の開催、また報道等によって関心の昂りを見せてゐるものの、幼少から譲位後までを通覧できる伝記がない状態であった。しかしこの平成末期に到って重要な本が二冊刊行されたので紹介したい。
 一冊目はミネルヴァ書房から刊行された『光格天皇』である。著者、藤田覚氏は『近世政治史と天皇』『幕末の天皇』『江戸時代の天皇』等の著書があり、光格天皇研究の第一人者といふべき人物である。「ミネルヴァ日本評伝選」シリーズに収録された本書は待望の伝記であり、その質量ともに今後最も参照されていく一書といへる。とくに今まで不明点が多かった院政後、光格上皇としての活動にも焦点が当てられてゐる点は特筆すべき点だらう。

 光格天皇はその御代において数々の朝儀を再興し、平安朝の文化を当代に示されたが、それは当時の古代を尊ぶ風潮と合致してゐた。これらの古代文化、あるいは芸術についての追求は閉鎖的な空間で営まれたのではなく、多くの知識人の交流によってもたらされた。その中には本居宣長も含まれるのだ。
 それらについて詳細に記されてゐるのが、二冊目に紹介する勉誠出版『文化史のなかの光格天皇』である。飯倉洋一・盛田帝子編となってゐるが、本書は光格天皇その人より周辺の人物、文芸、出版について語られてゐる。総勢十九人のそれぞれのテーマの第一人者によって執筆されてをり、同時代の文芸を研究する上で必見の書物であると断言できる。

〈『光格天皇』本体3200円、ミネルヴァ書房刊。『文化史のなかの光格天皇』本体8000円、勉誠出版刊。いづれもブックス鎮守の杜取扱書籍〉
(三重・一御田神社権禰宜 岡本和真)
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