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杜に想ふ 大嘗祭をめぐって 武田幸也

平成30年10月29日付 5面

 先月の十四日から二十一日の一週間は、めづらしく天皇に関はるイベントが多く開催された。十四日には、①ヘレン・ハーデカ先生による「二〇一九年の日本の即位式 古代の儀礼と現代政治の邂逅(The Japanese Enthronement Ceremonies of 2019:Ancient Ritual Meets Contemporary Politics)」と題する発表、二十日には②國學院大學研究開発推進機構古事記学センター並びに神道資料館とライシャワー研究所の共催による「古代日本の神話と儀礼(Myth and Ritual in Ancient Japan)」といふワークショップ、二十一日には③ケネス・ルオフ先生による「平成の君主制と未来の日本の君主制(The Heisei Monarchy (1989-present) and the Future of the Japanese Monarchy)」と題した発表がおこなはれた。いづれの発表・ワークショップも明年におこなはれる今上陛下の御譲位と皇太子殿下の御即位、それに伴って斎行される大嘗祭を見据ゑたものであることは言ふまでもなからう。
 以下、発表の内容とそれについての若干の感想を記すと、①は大嘗祭のこれまでの歴史を概説したものとなってゐたが、最後に天皇の譲位をめぐる論議の対立に言及してゐたことが目を惹いた。②は大嘗祭を軸に神話と儀礼の関はりについて考古学・神話学・文学・神道学等、さまざまな視点から議論がなされてゐたが、大嘗祭が中心となった関係で、とくに折口信夫の影響についてどう考へるかが一つの問題として提示されてゐたやうに思はれる。③は今上陛下のこれまでの御活動を概説し、今後、天皇が国民に対してどのやうな役割を果たしていくのかについて議論されてゐたが、海外の視点から天皇の役割について議論されてゐることが興味深かった。
 ただ、これらの発表を通して感じたのは、天皇の即位や大嘗祭そのものよりも、それに伴ふ諸問題に対して関心があるのではないかといふことである。とくに①と③の発表ではさうした傾向が顕著であったやうに思はれる。アメリカの日本研究すべてがさうではないと思はれるが、これらの発表を見る限りにおいては、恐らく大嘗祭の本義や本質といった問題そのものよりも、現在の日本にとって新たな天皇の即位や大嘗祭が、国民にとってどのやうな意味を持つ可能性があるのかといふ点が、こちらでの興味を惹いてゐるのではないか。このことは退位をめぐる議論が取り上げられたことや、これからの日本の君主制について議論されてゐたことから推測される。
 しかしながら、いづれにせよ改めて重要と思はれたのは、天皇とは何か、その存在は国民にとってどのやうな意味を有してゐるのか、といった問題を、多様な視点から考へることである。さうした営為が、日本国内だけでなく、海外から日本を考へる際にも重要な意味を果たすのではないであらうか。
(國學院大學助教・ハーバード大学ライシャワー研究所客員研究員)

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