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杜に想ふ 半年 八代司

平成30年11月12日付 5面

 連日のニュースでは、まさに判で押したやうに各催事が「平成最後の」との冠付けで報道されてゐる。すでに聞き慣れて些か食傷気味であったのだが、いよいよ十一月に入って「平成もあと半年」とのキャスターの一言に、私自身もなにかしらの焦燥感を感じてゐる。
 さて、今秋、京都で開催された展覧会『京都の御大礼―即位礼・大嘗祭と宮廷文化のみやび―』を拝見する機会を得た。本展の開催を偶然ウェブサイトで知り得て、その各展示品も興味深く、また約一カ月間の長期間であったのだが、とりわけ本展覧会の実行委員長でもある所功氏の特別講演会「“京都の御大礼”がもつ意義を考える」をどうしても拝聴したくなった。私自身は地方に住ひしてゐることからも早朝出発の日帰り強行軍で向かふこととなった。
 展覧会場の「東山天皇御即位式・靈元上皇御譲位行列図屏風」は、江戸期となる先例の御譲位の様子が極彩色で描かれて興味深く、また次第を記した史料「剣璽渡御行列」の一冊には「宝剣神璽」と墨書され、神代より皇位とともに継承される神器への尊崇を感じた。
 また参考資料となる寛永三年に後水尾天皇の二条城への行幸を描いた六曲一双の金箔地の壮麗な「二条城行幸図屏風」には、その御列を見物に参集した市井の人々の様子が活き活きと描かれてゐた。行列がだんだんと近付くにつれて緊張感が高まる警固の侍たちの様子。群衆のなかには天皇が乗られた鳳輦に手を合はせて拝む老若男女や僧侶の姿も見られ、その通過後にはよほど緊張してゐたのか汗を拭ふ姿まで描かれる。
 しかしその一方で、将軍家光の二頭立ての牛車は金泥で葵の紋を散らして威光を示し、平身低頭する侍は居並ぶが、群衆のなかに手を合はせて拝む者は誰一人として見受けられず、その様子は物見遊山といった呈で、まさに権威と権力との差をみごとに表はしてゐた。
 儀式を次代へ確実に伝へるための記録として描かれた江戸期の高御座や調度の絵図や大嘗会御屏風などの貴重な史料の数々。また大正、昭和の御代替りに際して発行された絵葉書やセピア色の写真帳も味はひ深く、時代時代の人々が皇室への敬慕の念の涵養と奉祝のためにもさまざまな方途を凝らしてゐたことが窺ひ知れた。
 講演会も実に盛況であり、主催者の予想を遙かに上回る来場者のために入場制限となり、急遽、二回連続の講演となった。それでも、壁際や入口に立つ聴講者で溢れ、講師の御高配で演台の下や横にも座らせていただいてゐた。訊けば京都以外からの聴講者も多く、明年の御大礼への関心の高さも窺へた。
 もう半年、あと半年、まだ半年ある、と考へは人さまざまであらう。この秋をいかに捉へ、百年後、二百年後への伝承と足り得る御大典奉祝の赤誠を捧げるにはいかに――と車窓を眺めて帰路に就いた。
(まちづくりアドヴァイザー)

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