文字サイズ 大小

杜に想ふ 原点回帰 八代司

平成31年01月28日付 5面

 昨年の年始めの豪雪と比して、今年は小正月まで全国的にも晴天に恵まれ、新春定番の筝曲「春の海」が似合ふ、穏やかな初春となった。尺八とともに奏でられる二重奏は、日本のみならず海外においても日本を想起させる名曲として名高い。筝曲家の宮城道雄が昭和五年の歌会始の勅題「海辺巌」にちなみ昭和四年の末に作曲されたもので、今年で九十年となる。
 例年、年の瀬ともなると、新聞紙面やテレビの情報番組では一年間の出来事を振り返る趣旨で報道特集が組まれるのが恒例である。しかしながら、昨年末は些か様子が異なった。とりわけ「平成最後の年末」とのことで、各社一様に平成の御代の三十年間も特集されてゐた。大事件や大災害、そしてパソコンや携帯電話の普及など、国内外はもとより自分自身のことも含めて、今昔の感に堪へない。
 さて、暮れも押し迫ったころ、地元紙に「原点回帰」との大見出しがあり、白衣白袴姿で作業する青年神職が大きく扱はれてゐた。それは御縁あって普段から親しくさせていただいてゐる禰宜さんで、その記事には奉仕する神社の創建や、地名が御祭神のお告げによった塩作りに由来するとされてゐることから「神社の歴史を見直すきっかけ」として初めて製塩に取り組んだことが記されてゐた。
 社殿を背景に、注連縄を掛けた手製の塩釜を用ゐて境内で製塩する絶妙な写真の構図。また手にする杓子も凝ったものであり、それは遊び心と記すといささか語弊があるかもしれないが、彼が楽しみながら教化活動に取り組んでゐることも分かるものであった。早速、電話をしたところ、県内のある神社の宮司さんからも「紙面を読んだ」と激励の電話を戴き恐縮してゐると言ひながらも、その電話がさらなる励みになったとも語ってゐた。
 彼とは折に触れて盃を交はし、さまざまな教化活動について話してをり、その真摯な熱意と行動力には常々敬服してゐるところでもある。累代の社家の後継者として父である宮司を輔け、神宮大麻頒布のモデル神社の指定を受けてから一層の教化活動の展開にも努めてゐる。また県内の神社から助勤奉仕の依頼があれば駆け付けるなど、周囲からも信頼される実に好人物。訊けば今年は年男とのことで、「自社の歴史を学ぶ年にする」と新年の計を語ってゐた。世間では猪年生まれは猪突猛進型とも言はれるが、その真っ直ぐな探求心から生じるさらなる活躍をお祈りしてゐる。
 街づくりの企画をする時には、まったく新しい事物を考へるのではなく、旧来あったものをあらためて見つめ直し、時代に合はせて新たな一味を加へてみることも肝要であると提言してゐる。神社祭祀や地域の祭礼行事など、時の流れのなかで衰頽や廃絶したものは多い。その理由や事情を再検証しつつ、復活や再興のなかから新たに生まれてくるモノがあることに、新たな御代の到来とともに思ひを馳せたい。(まちづくりアドヴァイザー)

オピニオン 一覧

>>> カテゴリー記事一覧