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杜に想ふ 心と体の連動 涼恵

平成31年03月04日付 5面

 ラヂオ体操の奥深さに感銘を受けた。それは、中堅神職研修に参加した際のこと。
 前から情報として、研修の間にラヂオ体操をやるらしいとは聞いてゐたのだが、「中堅でラヂオ体操?」と、どこかしら恥づかしさを感じてゐた。実際にみんなと一緒にラヂオ体操をやってみるまでは。
 教室から外へ出て、神宮道場のお庭で身体を伸ばす。それだけでも気持ちが晴れ晴れとしてくるのだが、軽快な音楽が流れ出し、お手本となる所役の研修生と事務局の方に合はせて身体を動かしてみると、子供の頃にやったことはあるはずなのに、とても新鮮に感じられた。正直言って、この歳になるまでラヂオ体操の魅力に気付くことがなかった。頭のてっぺんから足の爪先まで細胞が活性化するやうな感覚。単純に身体が喜んでゐるかのやうで、なんとも気持ちが良い。
 ふと周りを見ると、一緒に受講してゐる先輩神職の方々も真剣に体操をしてゐる。一見同じに見える動きでも、真面目に取り組んでゐる人の姿勢は明らかに違ふ。本人の周りの気が動いて熱が上昇してゆく様が伝はってくるのだ。さらにワクワクしてきた。心と体の連動。体を伸ばすことで、心まですくすくと育ってゆくやうに、素直な心をそのまま体現してゐるかのやうに感じられた。
 改めてラヂオ体操について調べてみると、なかなか興味深い歴史が記されてゐた。
 元々は昭和天皇御即位の御大典記念事業として、逓信省簡易保険局が国民の健康増進を図るために「国民保険体操」といふ名で制定したもので、昭和三年に放送が始まったといふ。しかし戦後、GHQからの示唆などを受け、NHKは昭和二十一年に戦前から続けてきた初代のラヂオ体操放送を自粛し終了する。同年、新ラヂオ体操第一、第二、第三が発表されるも、動きが複雑で専門的だといふ点と、戦後の混乱で放送時間が不安定であったことも重なり、あまり普及しなかった。現在のラヂオ体操は昭和二十六年に整へられ、第一、第二ともに三代目といふことになる。今我々が知るラヂオ体操が形成されるまでには、時代の流れとともに紆余曲折があったのだ。
 何度も作り直された背景があるからこそ、きっと、その動きの一つ一つに携はった方々の想ひや意図が凝縮されてゐるのだらう。
 今の時代、ラヂオ体操に対する受け止め方は、人それぞれのやうだが、国民の健康保持と体力向上を目的とした一つの働きを純粋に受け止めたい。学校の校庭や公民館、神社の境内で、ラヂオ体操を企画するのは自然な流れなのだと感じられる。私の恩師である祭式の先生は今でも毎朝ラヂオ体操を続けてゐると仰ってゐた。
 今年の夏休みには、娘と一緒に思ひっきり伸び伸びと校庭でラヂオ体操に励んでみようと思ふ。
(歌手、兵庫・小野八幡神社権禰宜)

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