文字サイズ 大小

論説 頒布終了祭にあたり 頒布のあり方を考へる

平成31年03月11日付 2面

 三月五日、伊勢の神宮で平成三十年度の神宮大麻暦頒布終了祭が斎行された。祭典に引き続き神宮大麻暦頒布春季推進会議が開催され、今年度の神宮大麻頒布数が約八百五十万体で、昨年度より七万体ほど減少したことなどの報告があった。
 今年度は、平成二十六年度に神社本庁の新たな施策として始められた「三カ年継続神宮大麻都市頒布向上計画」の第二期の二年目。施策には「氏子区域(頒布対象地域)の実態調査」と「頒布奉仕者の意識向上」が取り組むべき重要な課題として盛り込まれてをり、各地でも対策を講じてはゐるが、残念ながら減体傾向に歯止めをかけるまでには至ってゐない。ともあれ厳しい情勢下、全国各地で頒布にあたられた奉仕者各位の尽力に敬意を表したい。


 近年、都市部、とくに何かと利便性の高い都心部を中心にマンションの建設ラッシュが続いて久しい。それまで郊外で暮らしてゐた、いはゆる「団塊の世代」といはれる国民が大量に離職し、終の棲家を求めて都心部に移住する場合や、職場に近い場所に住むことで通勤時間の短縮などを図らうといふ若年層や中年層なども増えてゐると聞く。反面、高度経済成長とともに栄えた郊外は人口減少に頭を抱へ、地域の過疎化・高齢化が進んでゐるケースも少なくない。
 氏子区域内の状況が大きく変化するなか、神社を支へる地域社会、とりわけ地元自治会などが住民の転入・転出に迅速に順応することは容易ではない。個人のプライバシーや危機管理の側面から普及したいはゆる「オートロックマンション」の定着に象徴されるやうに、以前から叫ばれてきた地域連携の稀薄化には拍車がかかってゐる。地域差はあるものの、今日において頒布活動にあたっての基本といへる実態調査が一朝一夕にいかない理由を挙げれば枚挙にいとまがないともいへよう。


 実態のつかめない地域社会に住まふ氏子崇敬者に向かって、実際に頒布をおこなふ奉仕者の意識も複雑であらう。かかる頒布奉仕者も、神職だけでなく神社の総代や氏子青年会会員などを兼ねる地元自治会員、さらに神職養成機関で勉学中の学生が従事することもあるなど幅広いのが現状だ。
 頒布経験のある者らに話を聞くと、神宮大麻を拝受してゐるか否かに拘らず氏子区域を一軒一軒訪問してゐる神社もあれば、例年拝受する家庭のみ訪ねて回る神社もあるなど、神社・地域によって対応は異なる。ただ年末の多忙な時期に他者の生活圏内に入っていくことについては、少なからず抵抗を抱くといふ。これは普段から神社に関はりの深い氏子・崇敬者を訪ねる際にも同様のやうで、地域社会の変容がさうした意識にも影響を与へてゐるのかも知れない。
 神宮大麻の頒布活動における集合住宅への対策は、昭和三十年代から長きに亙っていはれ続けてきてゐるが、いはゆる「訪問頒布」自体に違和感を抱く住民が増えてきたと実感する奉仕者も少なくない。古くはテレビやラヂオのテレフォンショッピングがあり、インターネットの普及した現在はいはゆる通販サイトを介した買物が主流になりつつあるなど、必要なものは消費者の都合で発注し、一両日中に手元に届くといふ需要と供給のあり方が定着してゐる。
 さうしたなか、長年の習慣とはいへ、頒布奉仕者ひいては神社側の都合による訪問頒布は、頒布される側にもある種の抵抗感が生じてしまってゐるともいへないだらうか。


 神宮大麻は古来の御師の伝統を受け継ぎ、斯界が智勇を結集して頒布してきたもので、明治天皇の思し召しに基づき遍く頒布すべき性質のものといへる。その精神は未来永劫変はるものではないだらう。近年の「パワースポット」や朱印ブーム等々、神社・神道への関心が昂りを見せるなか、各家庭への訪問頒布のみならず、社頭でその意義を説明したり、本庁が発行する啓発資料を配布したりするなど、年間を通じた取組みによって着実に頒布実績を挙げてゐる神社もあると聞く。
 本庁の調査によれば、神職が頒布にきて神宮大麻を受けてゐるといふ割合は一割にも満たない。「氏子区域の実態調査」と「頒布奉仕者の意識向上」といった基本的な取組みにあたり、今一度、頒布活動の実情を再確認するのも有効な手段の一つではなからうか。

平成三十一年三月十一日

オピニオン 一覧

>>> カテゴリー記事一覧