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杜に想ふ 「年婚」を祝ふ 植戸万典

平成31年04月22日付 6面

 天皇・皇后両陛下におかせられては、今月十日、御結婚満六十年を迎へられた。いはゆる「ダイヤモンド婚式」だ。
 英国に由来する金婚・銀婚などの祝ひは日本でも受容されて久しいが、これをジュエリー業界の商機と嗤ふ勿れ。本邦のその草分けは明治の大婚二十五年祝典とされ、その後、大正、昭和、平成と、我々は天皇・皇后の御結婚の節目を国の慶事としてお祝ひしてきた。今日の神前結婚式が、当時東宮であられた後の大正天皇の婚儀に影響を受けたものであるやうに、神社における婚礼の意義は重い。そも商ひも信心も人の営みの一環。近代に滲透した初詣も、鉄道業界の商機と無縁でない。
 金婚式などはその名にちなむ贈り物で祝ふ習慣だが、仄聞するに最近では「バウ・リニューアル(誓ひの更新)」なる儀式もまた習慣化してゐる。欧米でカップルが毎年や節目の記念日に、教会などで結婚の誓ひを再確認する儀式ださうだ。なかには諸事情で当初挙式できなかった両人があらためて催す例もあるとか。英国国教会では「サンクスギビング・フォー・マリッジ」としておこなってゐるらしい。
 神恩感謝といふ面では、そのメンタリティは神道にも相通ずる。日本でも、記念日に氏神や婚礼を挙げた神社へ家族で参拝し、現在の生活の様子を奉告して誓ひを新たにする方はゐよう。人生儀礼の七五三や算賀祭のやうに、一家の節目にも祝ひの儀式があって良いかもしれない。
 金婚式もバウ・リニューアルも元は異国の文化だが、両陛下のやうに伴侶と仲睦まじく齢を重ねる相生の美徳そのものは決して舶来品ではない。神社とも縁深い能「高砂」の謡「〽高砂や この浦舟に帆をあげて……」は祝言の定番だが、これが謡はれ、また島台のモチーフにされたのも、その高砂の尉と姥に偕老の願ひを重ねたからであらう。
 神前婚も初詣も、前史があって今がある。もともと祝言には神が臨在してゐたし、新春には恵方詣や初縁日がおこなはれてゐた。新たな知見で習俗がリニューアルされるのも文化のあり様だ。作られた伝統よと腐すのは一知半解といふもの。
 しかし和魂洋才で学ぶにしても、バウ・リニューアルを直訳ぎみに「再誓式」とするのもあぢきない。ここは趣旨に鑑みて「年婚式」とでも仮に呼んでみよう。先祖の祀りを「年祭」といふのに倣ひ、また「結婚式」とも押韻する。これからのブライダル業界は「年婚」を広めるべきだ!
 売文屋のネーミングセンスは兎も角、いづれ結婚生活が長いのはめでたい。もっとも、会者定離も世の習ひだ。だからこそなほ一層、両陛下が共に歩まれた六十年の旅路は尊い。心より慶祝申し上げ、御譲位の後も両陛下の幾久しきをお祈りしたい。
(ライター・史学徒)

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