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【新刊紹介】牟禮 仁編『資料集 大嘗祭論抄・全』 大嘗祭のあらゆる言及を歴史的に網羅する資料集

令和元年09月09日付 6面

 新帝陛下の大嘗祭を目前にして、これまで大嘗祭を含む神道祭祀や神道思想史などにおいて多大な業績を残されてきた編者(長野・深志神社禰宜、神社本庁教学委員)から、一冊の本が刊行された。名を『大嘗祭論抄・全』といひ、大嘗祭の意味・意義やその本義・精神に関するあらゆる発言・言及を、明治以前から現在に至るまで網羅的に抄出した資料集である。本書は平成の大嘗祭を目前にしてまとめられた『大嘗祭論抄』(平成二年十月、資料数・七百七十三件)、平成の大嘗祭の翌年に、前書の補遺と続編をまとめた『大嘗祭論抄・続』(平成三年四月、資料数・三百九十九件)、『大嘗祭論抄・補遺』(平成三年十月、資料数・七十件)の既刊三冊に合はせて、平成三年十月以降、現在(令和元年八月一日)までの論説類を新たにまとめた『大嘗祭論抄・追補』(令和元年八月、資料数・六十二件)を追加して一冊に再編輯したものである。また、今回の再編輯にあたり、全体の執筆者索引が追加されてゐて、論説の捜索に対する便宜が図られてゐる。
 採録の対象は狭義の研究論文や概説書・辞事典類などに留まらず、新聞・雑誌類の記事や国会議事録までも対象としてをり、大嘗祭の「意味」に言及された言説はほぼもれなく蒐集されてゐると言って良い。全部で千三百四件(六百三十二頁)の大嘗祭に関する言説が抄出されてをり、これは一人の作業とは思へないほどの多大な業績である。とくに近現代における多量な情報類の要点をまとめて見ることができるのは本書の他にはないであらう。本書を通覧すれば、誰がいつ、どのやうに大嘗祭を捉へ、位置付けてきたのかが明確に理解され、時代や論者による認識の相違・変化をあぶりだすことができる。大嘗祭に関する論争・言説の過去が白日の下にさらされるのであり、過去の大嘗祭論議を冷静に振り返ることが可能となる。さういった意味でも本書が刊行されたことの意義は大きく、かつたいへんに重いと言はざるを得ない。

 本書を用ゐて過去の大嘗祭認識を振り返り、知的冷静さを身に付け、妄説や感情論に振り回されることなく大嘗祭を考へていき、大嘗祭を無事に継承して後世に託していかねばならない。それは、一代一度しかおこなはれない大嘗祭の記録を残し、儀式次第を後世に伝へてきた古代・中世の公卿達の意識にも通じることであり、かつ、編者が本書をまとめた多大な恩恵に応へることでもある。本書の発行部数は多くはないが、できるだけ多くの方々の目に触れ、後世の大嘗祭論議が正しい方向に向かふことを祈念する。
〈本体3000円、神社新報社刊。ブックス鎮守の杜取扱書籍〉
(國學院大學兼任講師、國大研究開発推進機構PD研究員・塩川哲朗)

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