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論説 教誨師研究会 「再犯防止」に取り組む覚悟

令和元年09月09日付 2面

 わが国では検挙人員に占める再犯者の割合「再犯者率」が上昇してをり、犯罪や非行のくり返しを防ぐ「再犯防止」が課題となってきた。平成二十八年には「再犯の防止等の推進に関する法律」が施行され、刑務所出所者が再び罪を犯すことがないやう、再入所率上昇への歯止めなどが目標に掲げられてきた。研究会で記念講演をおこなった法務省の名執雅子矯正局長は国の取組みや課題を説明した上で、近年、再入所率が減少傾向にあることなどについて、神社神道を含む教誨師の活動もその一因ではないかと話した。



 教誨師は、全国の刑務所・少年院などの矯正施設や、刑が確定しない被告人などを収容する拘置所・少年鑑別所等において、被収容者の希望に応じて宗教教誨に従事してゐる。被収容者の信教の自由を保障しつつ、宗教を通じて精神的安定や成長を促す「宗教教誨」や、宗教教学に頼らずに道徳心や倫理観を涵養する「一般教誨」などにより、受刑者の改善更生と社会復帰の手助けをするのが役割だ。マンツーマンの「個別教誨」、集団を相手におこなふ「集合教誨」、出所時や釈放などの前の「釈前教誨」、さらには極刑犯に対して執行直前におこなふ教誨など、さまざまな局面に応じた活動に従事する。
 公益財団法人全国教誨師連盟によれば、現在その総数は約千八百人。仏教系がおよそ千二百人、キリスト教系が二百五十人ほどとなってをり、神道系は約二百二十人。うち神社本庁教誨師は百四十人となってゐる。
 本庁では神社神道の信仰に基づき教誨事業をおこなふため、昭和二十二年に教誨師規程を制定。教誨事業にとくに深い関心と充分の熱意がある者のうち、「階位明階を有し、二級神職に相当する者」、もしくは「神社庁長が特に適任と認める者」を統理が本庁教誨師に任命してゐる。



 斯界においては、かねて後継者養成が懸案とされ、平成十九年には教誨師補助員の新制度も設けられてゐる。教誨師は、さまざまな被収容者と定期的に対面することなどから、なにより精神的な負担を伴ふことも多い。神道信仰や教学への自問、ひいては生き方をも含めた自省あるいは自制を常に強ひられると指摘する者も少なくない。時間的な拘束や経費などに加へ、かうしたことも課題となってゐるやうだ。
 教誨師の後継者養成にあたっては、これまでの神明奉仕の経験などを踏まへつつ、教誨における一定の「型」や「留意点」などが例示されるが、なにより実務経験の積み重ねが重要となる。時処位に応じた判断能力など、それぞれの個性が影響する側面も少なくない。また場合によっては、身を削るやうな思ひをすることも稀ではないといふが、その一方で被収容者との対話を通じて、彼らの胸に敬神崇祖などの神道精神が芽生えたときなどには、無上の喜びを感じるとの報告も聞かれる。
 信仰の営みや教学の構築は何も教誨師に限られたものではなからう。例へば自身の神学に基づく神道講話の実施などは、全神職にとって重要な取組みといへる。教誨師の後継者養成は、確たる信念を持った神職の育成そのものといっても過言ではない。



 「再犯防止」といふ重い課題を前に、地域社会が如何に出所者を受け入れるかについては、社会全体が関心を寄せねばならないことでもある。再犯を引き起こす最大の要因は、出所後の居住先がなく、しかも再就職が難しく、経済的困難に陥ってしまふからだといふ。それは、地域社会の崩壊や所得格差、いぢめ、社会からの孤立といった現代の日本が抱へる問題と表裏一体といっていい。教誨師とともに、地域コミュニティの精神的な核としての神社の役割も改めて多角的に問はれてゐるともいへよう。
 「天下四方国民」の安寧を祈る神職にとっての「再犯防止」に向けた覚悟の一つとして、地域社会が連携を図ることの意義を、斯界全体で改めて見つめ直すときでもあらう。

令和元年九月九日

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