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論説 皇室と社会福祉事業 大御心を戴き歩む指標に

令和2年05月11日付 2面

 天皇陛下におかせられては去る五月一日、御即位から一年を迎へられた。改めて御代の言寿ぎを申し上げるとともに、これまで重要な諸儀式・祭祀を執りおこなはれ、また御公務を通して皇后陛下とともに国民に寄り添っていただいてきたことに感謝を捧げたい。
 昨年十月二十二日の即位礼正殿の儀において天皇陛下には、「国民の幸せと世界の平和を常に願い、(中略)国民の叡智とたゆみない努力によって、我が国が一層の発展を遂げ、国際社会の友好と平和、人類の福祉と繁栄に寄与することを切に希望いたします」との「おことば」を国の内外に向けて述べられた。
 新型コロナウイルス禍に係るニュースが連日流れてくる今日、わが国はもとより世界の、そして人類の安寧と発展に向けて、心して難局を乗り越える態度と協調性が今ほど一人一人に求められる時はなからう。

 ところで本紙四月二十日号において既報の通り、御即位に伴ひ天皇陛下には、子供の貧困問題に関する事業と災害時の被災者支援活動に関する事業をおこなふ二団体へ、各五千万円を賜与されたことが四月六日に宮内庁より発表された。これにあたり三月には国会で、皇室が社会福祉事業の資に充てるため、一億円以内の賜与を可能とする議決がなされてゐる。法律上、天皇・内廷皇族による年間の賜与額には千八百万円といふ限定があり、それを超える場合は国会の議決を経る必要性による。
 上皇陛下御即位の時にも同様のことがあり、先の「おことば」にある福祉への思召しとして、皇室のお姿に思ひを深めたいところである。敬神と尊皇の精神を重んずる神社界としても、このたびの賜与を契機として、福祉事業への関はりが「大御心」を戴き歩む指標でもあることに思ひを致したい。

 福祉の心を具体的に展開する領域として、さまざまな事業活動がある。皇室が関はられる福祉分野の内容は多様で、対社会への御活動すべてが福祉的であるとして、限定的に取り出すことは難しいとも指摘されるが、医療・福祉等関連組織団体の代表御就任、また福祉施設への御訪問活動など精神的な面を含め、皇室が福祉活動を積極的に支援されてきたのは事実である。古くは貧者救済を目的とした「悲田院」や医療施設の「施薬院」を設置された光明皇后(天平応真仁正皇太后)の慈善活動が知られ、わが国が近代を迎へた明治維新以降も皇室が福祉事業の領域に物心両面で支援の輪を広げられ、今日に及んでゐることは見逃せない。
 明治維新後のわが国における福祉制度は、「人民相互の情誼」による相互扶助を基本とする「恤救規則」(明治七年)での運用がなされ、昭和四年の「救護法」まで極めて限定的であったとされる。その後、さうした国家制度は戦前・戦後において大きく変化して今日に至るが、この間を通じての皇室の役割、また、とくに皇后・皇族妃の御活動やそれを身近に支へた人々の重要性についての理解や研究も進んでゐるやうだ。
 女子教育や日本赤十字社の発展など、昭憲皇太后の慈善活動への御熱意と御事績はよく知られるところである。一方、国家的な責務による社会福祉領域への関与が限定的ななかにあって、その大きな不備を渋沢栄一のやうな民間社会事業家や宗教者・組織が補ふとともに、福祉事業の新たな内容を開発してきたともされる。
 戦前期の天皇・皇后両陛下による災害支援や福祉活動への下賜状況を克明に記した『恩賜録』などの資料が、宮内庁書陵部の画像データベースとしてウェブサイト上で閲覧できる。「慈善活動」「感化救済事業」「社会事業」などと称されてきた福祉に係る諸事業について、明治期に新たな端緒が開かれてゆくなかで皇室が果たしてこられた牽引的役割を知ることも大切であらう。

 人がよりよく生きる、幸せな生活を求めるといふ福祉の観点からは、健康はもとより社会生活を送る上での人間関係や仕事の良好な在り方、さらには文化を享受したり、スポーツ活動に取り組んだりする機会が、誰にでも保障される必要性があることを改めて気づかされる今の時代である。斯界としても、この感染症の収束後に何をなすべきなのか、天皇・皇后両陛下の御活動や御実践に学び考へておきたいところである。
令和二年五月十一日

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