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論説 新型感染症と神社界 変はりゆく世情と変はらぬ信仰

令和2年07月13日付 2面

 新型コロナウイルス感染症の蔓延にともなふ緊急事態は解除されたが、その感染者数に増加傾向が表れてをり、とくに若年層の感染が多数を占めるなど、これまでとは異なる状況も見られ、収束にはまだ目途がついてゐない。抗ウイルス新薬やワクチンの開発が続けられてゐるが、まづ以て感染症対策に従事されるすべての方々に感謝申し上げるとともに、改めて収束に向けての尽力をお願ひしたい。
 大祓は罪を祓ふ神事として一般的に六月と十二月におこなはれるが、水無月(夏越)の大祓は茅の輪の神事を含めて罪穢そして疾病を祓ふ神事となってゐる。それゆゑ今年の水無月大祓では、悪疫(新型コロナウイルス)退散の願ひをこめた祈りが多く捧げられたと聞く。延喜式祝詞に「集侍神主祝部等諸聞食登宣」「集侍親王・諸王・諸臣・百官人等諸聞食止宣」などと記されるやうに、祭りは「集まる」ことが前提で、神社としては多くの参列者を得て斎行したいところだが、それによっていはゆる「密」になることを防ぐため、神職のみ、または役員等最小限の参列者を以て斎行する事例が多く報告されてゐるのは時勢の表れであらう。

 神社関係者は、感染防止のため咳エチケットの呼びかけや消毒の徹底、密集・密接・密閉を避けた参拝のあり方などを摸索し、それぞれの立場で実践してきた。祭礼においては人数制限をはじめ神輿渡御や奉納行事の見直しをおこなひ、個人祈祷においてもさまざまな工夫を凝らすなど、神社の由緒・伝統に基づく祭祀の根幹を曲げることなく、それぞれの対応を図ってゐる。さうしたなかで、悪疫退散を願ふ機会でもある大祓においても、参列者の「密」を避けて神事が執りおこなはれた。
 かうした対応は、新型感染症の蔓延といふ緊急事態においての限定的なものとしておこなはれてゐるが、果たしてその収束とともにすべて元に戻るといへるだらうか。新型感染症の蔓延といふ情勢を機に、「不要不急」「ソーシャルディスタンス」「三密」、さらには「新しい生活様式」といふ言葉によって象徴されるやうな、一種の文化変化が起きることも予想される。

 もちろん新型感染症に起因する変化は神社界のみならず、広くさまざまな社会現象として表れてゐる。インターネットを活用した在宅勤務、オンライン会議の導入、学校教育の場での遠隔授業の実施などは、感染症蔓延といふ想像もつかなかった事態が訪れたため急遽おこなはれてゐるが、そもそも技術的には充分可能であって、実際はそれを取り入れるきっかけがなかっただけではなからうか。感染症が契機となって雪崩を打つやうに変化が起こり、各種会議がウェブや書面表決でおこなはれても、ほとんどの人々がそれを当然のこととして受け入れてゐるのは良い例といへるだらう。
 神社の目指すところを人々に伝へ、神威発揚や社頭隆昌を図るために用ゐてきた手法が見直しを迫られ、例へば個人祈祷についても外出抑制下において、遠方の崇敬神社への郵便・電子メール・SNS等による申込みと祈祷符の発送など、これまで「異端視」されてゐたやうなことが緊急事態の中で運用され始めたが、今後はそれが当然のものとなっていくことも考へられる。

 「異端視」との言葉を用ゐたが、神社への信仰はこれまでの歴史的な変遷の中で民俗的な営みなども加はって築きあげられてきたものであり、必ずしも「異端」に対する「正当」となる解答は用意されてゐない。論理的な矛盾を生じることや、これまで築いてきたものを否定する行為は当然排斥されるべきだが、現状において従来と異なる手段が求められてゐることは確かである。
 今後、夏から秋の祭り、七五三詣、新穀感謝の祭事、年末年始の行事など、神社界は「ウィズ・コロナ」「ポスト・コロナ」と呼ばれる新たな社会情勢の中で迎へることとなる。神社庁の中には、さうした状況における対応を考へるための研究会を組織し、新たな行動計画の指針を纏めようとの動きもあるといふ。指示待ちではなくそれぞれが考へを発信して多くの人々との連携の中で情報を交換し、淘汰・洗煉を経てより良い対応を図っていくためにも、本紙面の活用も願ひながら、変はりゆく世情に変はらぬ信仰心を保持できるやう期待するものである。
令和二年七月十三日

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