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論説 終戦記念日を終へて 戦歿者の慰霊・顕彰を次代に

令和2年08月24日付 2面

 「戦没者を追悼し平和を祈念する日」の八月十五日、天皇・皇后両陛下御臨席のもと日本武道館で「全国戦没者追悼式」が挙行され、また靖國神社では英霊の遺徳を偲び真摯に祈りを捧げる参拝者の姿が見られた。
 追悼式において天皇陛下には、昨年の式典における「おことば」を踏襲されつつ、新型コロナウイルス感染症の感染拡大にも触れられ、「皆が手を共に携へて、この困難な状況を乗り越え、今後とも、人々の幸せと平和を希求し続けていくことを心から願ひます」と述べられた。戦後七十五年の節目の終戦記念日にあたり、改めて大御心を体して世界の平和とわが国の一層の発展を祈念するとともに、英霊の慰霊・顕彰の継承に向けて引き続き尽力していくことを誓ひ合ひたい。



 陛下も「おことば」で触れられた新型感染症の影響は終戦記念日の行事等にも及び、「全国戦没者追悼式」は規模を縮小して参列者の範囲・人数を縮減。会場においては座席間隔を確保した上で、マスク着用・手指消毒・館内の消毒・換気が徹底されたほか、国歌斉唱はおこなはず奏楽のみとし、その奏楽においても管楽器の使用を控へたといふ。一方で参列が叶はなかった遺族等のため、動画共有サイト「ユーチューブ」によって式典の様子が配信された。
 また靖國神社においては、八月十五日の参拝集中を避けるため、八日から十六日までの「戦歿者追悼週間」を設定。「英霊にこたえる会」主催の全国戦歿者慰霊大祭が参列者を制限して斎行されたほか、参道で開催されてきた戦歿者追悼中央国民集会と青年フォーラムは広く参加者を募っての集会を取り止め、「ユーチューブ」を活用したライブ中継がおこなはれた。
 このうち靖國神社における「戦歿者追悼週間」の設定などは、斯界における新型感染症への対応として初詣分散化への呼びかけも検討されてゐるなか、一つの取組みの事例として今後の参考ともならう。



 今年の「全国戦没者追悼式」においては、二十の府県が遺族の参列を見合はせるなど参列の辞退が相次いだといふ。参列者については、かねて戦歿者の父母や配偶者から子や孫へと世代交代が進んでをり、今後はさらに次の世代へと主体が移っていくことにならう。今回、最年少の参列者は曽祖父を南洋で亡くした中学一年生の女児だったが、両陛下御臨席のもと厳粛に挙行された式典の体験は、その胸に深く刻まれたのではなからうか。かうした式典への参列を戦歿者慰霊の心を次世代に伝へていく契機とする意味でも、今回の規模縮小は洵に残念であった。
 遺族の世代交代は、靖國神社をはじめ全国の護国神社などにおいても重要な課題となってをり、それぞれさまざまな取組みが重ねられてきた。もとより靖國神社・護国神社等に祀られる英霊は大東亜戦争における戦歿者に留まるものではなく、八月十五日の終戦記念日や先の大戦における遺族に限らず、国民全員が折に触れて、国難に殉じた英霊の存在、その慰霊・顕彰について考へていくやうにしたいものである。



 先述のやうに新型感染症の影響で「全国戦没者追悼式」の参列者が減少するなか、靖國神社の参拝者も昨年の半数ほどになったといふ。一方で、例年であれば帰省先の故郷などで終戦記念日を迎へてゐる都内在住者が、今年は帰省を控へて靖國神社に参拝するやうな事例もあったやうだ。また日本武道館での追悼式や靖國神社での国民集会が動画配信されたことで、普段より多くの人々がその様子を目にすることができたのではなからうか。戦歿者の追悼、わが国における慰霊・顕彰の中心的施設である靖國神社に関して、改めて意識を深める機会になったものと信じたい。
 国難とも称される新型感染症の流行下で迎へた七十五回目の終戦記念日を終へた今、もとより戦争当時の状況と現在とを同列に論じることはできないものの、国家存亡の危機に際して尊い命を捧げられた英霊について改めて考へたい。そして、その御霊を慰め、御事績を後世に伝へていくためにも、「我國の為をつくせる人々の名もむさし野にとむる玉かき」との明治天皇御製に象徴される靖國神社の歴史と存在についても、より広く深い理解を共有していきたいものである。

令和二年八月二十四日

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