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杜に想ふ 本邦の音 山谷えり子

令和2年10月05日付 7面

 秋の七草の名を墨書してみた。
 ハギ、ヲバナ、クズ、ナデシコ、ヲミナヘシ、フヂバカマ、キキョウ。日本の秋の風景が目の前に広がって嬉しくなる。
 戦前、某新聞社が芸術家や植物学者らに一つづつ好みの「新・秋の七草」選定を依頼したところ、選ばれたのはコスモス、ハゲイトウ、アカノマンマ、オシロイバナ……などなど。ちなみに菊池寛はコスモスを挙げたといふ。
 なるほど、なるほどと思ひつつ、金木犀も捨てがたいなぁと金木犀の香りを求めて歩くのも楽しみの一つである。
 コホロギ、スズムシ、マツムシなど虫の声を追って歩くのも秋の楽しみ。リリリ、コロコロリ、チチ……鳴くのはいづれも雄で、俳句では虫の声、虫の音、虫時雨など豊かな季語となってゐる。
 すだく虫の音に季節を感じ、静かな秋に身をゆだねるのは日本人には普通のことだと思ふが、西洋人には虫の声は、雑音と聞こえるらしい。日本人の音に対する感性は、自然界の風のそよぎや雨の音など四季の変化と深く関係してゐるやうに思ふ。
 学生時代、米国女性教師から「日本文化は独得。その深さを理解するためにも邦楽器を手習ひしなさい」とすすめられ、三味線を習ひ始めた。
 ピアノのやうにドレミの楽譜ではなく、チントンシャンなど口三味線で教へ込まれて戸惑ったが、三味線、琴、笙、篳篥、笛、鼓、どれもドレミでは表現できない揺らぎに満ちてをり、つまりそれは自然界の音がドレミではなく倍音(基音の振動数の整数倍の振動数をもつ音)や複雑な揺らぎに満ちてゐることと関係してゐるやうに思へた。
 小泉八雲ことラフカディオ・ハーンは、笙、篳篥などの音を、初めは面白くないと感じてゐたが、何度も聞くうちに味はひが理解されてきたと語ってゐる。
 コロナ禍で、文化芸術関係者は苦しい状況にある。とくに邦楽関係は厳しく、三味線の大手制作会社が廃業かといふ報道もなされた。かうした邦楽危機の状況に対し文化庁は来年度の概算要求に邦楽関係の項目を初めて打ち出し、高校、大学の邦楽サークルの支援も求めることとした。
 小・中学校の音楽の教科書には雅楽、邦楽鑑賞の楽曲も入ってはゐるが、まだまだ少ない。音楽の先生も邦楽に不案内の方が多く、心もとない。
 オンライン授業とソフトコンテンツ作りが進む今だからこそ、雅楽、邦楽関係のコンテンツ作りにさまざまなチャレンジがあるとありがたい。
(参議院議員、神道政治連盟国会議員懇談会副幹事長)

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