文字サイズ 大小

論説 無形文化財の登録制度 利点と課題の確認を

令和3年02月01日付 2面

文化庁は一月十五日、文化審議会文化財分科会企画調査会における無形の文化財の保存・活用のあり方についての議論を纏めた報告書として、既存の「指定制度」を補完する「登録制度」の創設を盛り込んだ「無形文化財及び無形の民俗文化財の登録制度の創設に向けて」を公表した。
 調査会は、過疎化や急速な少子高齢化等にともなふ担ひ手不足などの理由により伝統的な芸能や古くから続く地域の祭りの存続が危ぶまれてゐることや、書道・食文化などの生活文化をはじめとするさまざまな文化的所産について保存・活用のあり方の検討が求められてゐることなどを踏まへ、その対応などを議論すべく昨年十月から十二月にかけて五回に亙って開催。委員らによる議論に加へ、関係者へのヒアリングや一般への意見募集(パブリックコメント)なども経て、このほど報告書が纏められた。



 無形の文化財はこれまで、「重要無形文化財」「重要無形民俗文化財」への指定や、「記録作成等の措置を講ずべき無形文化財」「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」への選択などを通じて保護が図られてきた。
 このうち無形文化財は演劇・音楽・工芸技術などが対象。一方の無形の民俗文化財は衣食住・生業・信仰・年中行事等に関する風俗慣習、民俗芸能、民俗技術などを対象とし、神楽・囃子、獅子舞、田植踊り、山車・曳山・屋台行事、左義長等々を含め、神事にともなふ祭礼行事や神々への奉納行事など神社・神道とも関はりの深い多数の文化財が指定・選択されてゐる。
 報告書のなかでは、「地方創生に向けた取組とあいまって、各地域において、地域の祭りなどが地域文化の特色として捉え直されるなど、無形の文化財の継承に対する認識が高まっている」といふ現状認識が示されてゐる。従来の指定・選択に加へて「登録」といふ新たな制度が創設されることで関係者のさらなる意識昂揚に繋がり、各地に伝はる神社縁のさまざまな伝統行事の保護・継承がより円滑に進められるとともに、その一層の振興が図られることを期待したいものである。



 調査会における関係者へのヒアリングでは、無形の民俗文化財は人が担ふ文化財であり、その保護を図っていく上では、人あるいは人の集団である地域社会に対する支援のあり方を考へる必要があるとの指摘があった。前述の山車・曳山・屋台行事や神楽・囃子など神社と深く関はる無形の民俗文化財なども、まさに地域社会の人々によって支へられながら現在まで伝へられてきたものといへよう。神社と地域社会との相互の関はりのなかで地域文化が育まれてきたことの意義を改めて考へつつ、その継承に万全を期したい。
 また一般への意見募集では、生活文化をはじめとするさまざまな文化的所産として、何を保存・活用の対象とするのかについて多くの意見が寄せられたほか、デジタル化による文化財保護のあり方についての要望などもがあったが、このうちデジタル化は昨今のコロナ禍における状況を含め、時代を反映した考へ方ともいへる。いづれも今後の具体的な制度設計と運用においての検討が求められよう。



 報告書でも触れられてゐるやうに、無形の民俗文化財については過疎化や少子高齢化等により保存・継承が課題となってゐる。とくに現在も東日本大震災にともなふ原子力発電所の事故の影響に苦しむ福島では、関係者の離散や練習・発表の場の喪失などから事態はより深刻で、さらに昨年来の新型コロナウイルス感染症の蔓延によって活動機会が減少したことで状況は一層厳しくなってゐるといふ。
 また昨今は観光立国を目指すといふ観点などから文化財の「活用」といふ言葉が使はれてゐるが、先述の通り無形の民俗文化財とされるもののなかには、神社での神事にともなふ祭礼行事や神々への奉納行事なども多く含まれてゐる。文化財の活用を考へる場合、さうした本来の趣旨を損なふことがないやう配慮することも必要であらう。
 政府においては、新たな制度の法的位置付けとして今国会で文化財保護法の改正を目指すといふ。その保存・継承、そして活用における利点と課題をしっかりと確認しつつ、今後の法改正を注視していきたい。
令和三年二月一日

オピニオン 一覧

>>> カテゴリー記事一覧