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論説 初詣調査 コロナ後の固定化に留意を

令和3年02月15日付 2面

 新型コロナウイルス感染症の流行による、いはゆる「コロナ禍」での年末年始にあたり、神社界ではさまざまな対応を迫られた。さうした状況を把握するため、本紙では各地の通信員を通じたアンケート調査を実施し、前号においてその結果を紹介したが、全体の流れのなかで着目すべき点もあったので少し取り上げたい。
 アンケートでは、参拝者・祈祷の増減や感染症対策などを記してもらった。参拝者減少はとくに広範な地域から多くの参拝者が訪れるやうな神社において顕著で、いはゆる地域の氏神神社の減少幅は少ない様子も垣間見えた。
 各神社では感染症予防として、マスク着用、「3密」の防止、直会形態の変更(その場での神酒拝受から持ち帰りなどへ)、遮蔽装置・消毒液の準備に努め、また分散参拝の呼びかけを含めた事前広報等をおこなってをり、それぞれの記述はまさにコロナ禍を感じさせるものであった。その詳細に関しては今後関係者の協力を得て分析をおこなふことともならうが、今回の対策が果たして一過性のものか、それとも永続性を持ってしまふものなのかを慎重に検討しなければならない。

 ちゃうど一年前の令和二年二月は、新型感染症の存在を人々が耳にし始めた頃であり、防護策としてマスク着用が叫ばれてゐた。当初は神社でのマスク着用に疑義を抱く向きもあり、神前における着用については現在も議論が残ってゐるやうだが、流行拡大とともに一般での着用が進むなかで、少なくとも授与所等では神職・巫女なども当然のやうにマスクを着用するやうになってゐる。
 かうした変化を正月風景で見ると、「3密」の防止をはじめ、日時を長目にとる分散参拝、遮蔽装置の設置など昨年までの正月からは想像もできないやうな感染症対策をした上での年末年始となった。しかしアンケートを見ると、ほとんどの人々がさうした対策を当然のごとく捉へ、マスク着用の上で消毒薬を使ひ、間隔を空けて整然と参拝してゐることが多く報告されてゐる。対策への予想以上の反応の良さにやや驚くとともに、逆にさうした変化が容易に受け入れられてゐる様子に、これまでの伝統や風習が簡単に変更されてしまふことへの懸念も生じる。

 コロナ禍における年末年始の対策としては、これまでに挙げたものに加へ、「大晦日夕刻から元日朝までの閉門」「参拝が困難な人々への祈祷神札の郵送」「接触防止のための神符守札等の自動頒布」「分散化のための年末参詣」なども報告されてゐる。これまで必要性が論議されることはあっても実際の行動としては躊躇されてきたものが、コロナ禍といふ異例の事態のなかで実行に移されたものもあらう。かうした状況を見て最も懸念されるのは、アフターコロナといはれる感染症終熄後に、果たして従前の状態に復帰するのかどうかといふ点である。
 もちろん、時代の移り変はりのなかで、時々の生活習慣などに合はせて信仰形態が変化していくことは当然であらう。だが緩やかな時間の流れのなかで変化していくのではなく、緊急事態のなかで急遽改められたことが、そのまま固定化していくことには充分な吟味が必要といへよう。

 神社の信仰形態のなかでは、ハレの時にハレの空間に集ひ、ハレの時空を共感しつつハレの食を共にすることが重要とされるであらう。しかし、コロナ禍で迎へた年末年始の行事においては、「3密」の防止により時空を共有する集ひの場が減り、多人数での会食自粛の呼びかけによって飲食をともにする機会も減少してしまった。かうした習慣が滲透していくと、変化した生活習慣がコロナ終熄後において信仰のあり方を変へていく可能性も十分に考へられる。
 この年末年始に神社界がとった対策の多くは概ね妥当だったとの判断は可能であらう。しかしそのすべてが正しく、感染症終熄後も引き続きおこなってよいかどうかは、先にも記したやうに充分な議論が必要だ。初詣にあたり新型感染症の終熄を願った人々は、元の生活に戻りたいといふ祈りを捧げたことだらう。本来相応しくないとされることが緊急事態の名のもとに許容されるやうな状況があったとすれば、その原状復帰について、とくに留意しなければならないことを記しておく。
令和三年二月十五日

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