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杜に想ふ 国土 山谷えり子

令和3年07月05日付 5面

 庭で育つ朝顔が、ぐんぐん伸びてゐる。ふるさと福井の幕末の歌人、橘曙覧は独楽吟の中で「たのしみは朝おきいでて昨日まで無りし花の咲ける見る時」と、朝の楽しみを歌ってゐる。平成六年に天皇・皇后両陛下が御訪米なさった際に、当時のクリントン大統領が「私は橘曙覧が好きです」とこの歌のことを取りあげられたことも思ひ出される。
 先月閉会となった国会で、私は安全保障関係の質問を多くおこなった。従来の安全保障とともに浮き彫りになってきた経済安全保障、食料安全保障、土地をめぐる安全保障の問題などわが国を取り巻く安全保障をめぐる環境は厳しさを増してゐる。とくに安全保障と土地法制に関して、私は十数年間にわたって自民党で勉強会を作って法案づくりに努力してきただけに、閣法として成立したことは感慨深い。平成二十五年の「国家安全保障戦略」の閣議決定からも十年近くかかるほどに困難な取組みであった。
 全国各地の議会や地方公共団体から多く懸念の声があがり、調査の積上げもした上でのことで、「重要土地調査法」、正確には「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律」といふ長い名称の法律によって、やっとわが国において防衛関係施設周辺、海上保安庁施設周辺、国境離島、生活関連施設周辺の利用状況調査が可能となった。とくに重要な特別注視区域では所有権等の移転等について届け出が必要で、場合によっては国が買取りもできるといふものである。大きな前進である。ただ今回は、水源地については、森林法のやうな既存の措置があることや、水資源の保全について十八道府県で条例を定めてゐることなどもあって今回の法律には含めず、今後現状把握に努めながら見直しも含め検討することとなった。諸外国では水メジャー会社との裁判も起きてゐる。二十世紀の石油の時代から、二十一世紀は水の時代ともいはれてゐる。農業、漁業への影響、環境と国土保全、食料自給率の視点もふまへ情報収集に取り組み続けたい。
 明治末期、政府の神社合祀政策により、約八万もの神社が失はれ、地域の生態系は破壊され、水害や風害が村々を襲った。当時、博物学者で民俗学者の南方熊楠は「千百年を経てやうやく長ぜし神林巨樹は、一度伐らば億万金を費やすもたちまち再生せず」「わが国の神社、神林、池泉は、人民の心を清澄にし、国恩のありがたきと、日本人は終始日本人として楽しんで世界に立つべき由来あるを、いかなる無学無筆の輩にまでも円悟徹底せしむる結構至極の祕密儀軌たるにあらずや」と語り、森や水を守る重要性を訴へた。安全保障と国土保全、国柄を守ることは深いつながりをもってゐる。
(参議院議員、神道政治連盟国会議員懇談会副幹事長)

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