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論説 地球温暖化 稲作など端緒に意識共有を

令和3年08月30日付 2面

 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第五十四回総会及び同パネル第一作業部会(WG1)第十四回会合が七月二十六日から八月六日にかけてオンラインで開催され、第六次評価報告書・第一作業部会報告書の政策決定者向け要約が承認されるとともに、同報告書の本体等が受諾された。
 報告書では、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑ふ余地がない」として、地球温暖化における人間活動の影響が初めて断定的に明記された。また温暖化の進行との直接的な関係のもと、極端な高温、海洋熱波、大雨、いくつかの地域における農業及び生態学的旱魃の頻度と強度、強い熱帯低気圧の割合、北極域の海氷、積雪及び永久凍土の縮小など、将来的な気候システムの変化の拡大を予測。その上で、かうした人為的な地球温暖化を特定レベルに制限するためには二酸化炭素の累積排出量を抑へ、少なくとも正味ゼロ排出を達成し、他の温室効果ガスも大幅に削減する必要があることを強調してゐる。

 地球温暖化についてはかねて喫緊の課題とされ、平成九年には京都議定書、同二十七年にはその後継としてのパリ協定など、国際的な枠組みが示されてきた。今回の報告書に列挙された気候システムの変化などを見ても、温暖化が人類全体の生存に関はる地球規模での問題であることは改めて明らかといへよう。
 わが国においても昨年は年平均気温が統計開始以来で最も高くなり、七月豪雨による洪水や竜巻被害など深刻な気象災害も発生するなか、十一月には衆参両院で「もはや地球温暖化問題は気候変動の域を超えて気候危機の状況に立ち至っている」との認識を世界と共有すべく「気候非常事態宣言決議」を採択。今年四月の気候サミットで菅義偉首相は、「二〇三〇年度において、温室効果ガスを二〇一三年度から四六%削減することを目指し、さらに五〇%の高みに向けて挑戦を続ける」旨を表明してゐる。
 先進国と途上国との公平性、再生可能エネルギーの導入を含めた経済発展との両立など温暖化対策における課題は多く、引き続き今後の状況を注視していく必要があらう。

 地球温暖化の影響は多方面に及ぶことが予想されてゐるが、例へば農林水産省では温室効果ガスの排出抑制に加へ、気候変動による被害を回避・軽減するための対策を検討し、「農業生産における気候変動適応ガイド」を作成。その「水稲編」によれば、これまで高温による大幅な収量減少の報告例はほとんどないものの、白未熟粒等の増加などの品質低下は課題となってをり、気候変動の進行によるさらなる影響の深刻化が危惧されるといふ。
 振り返れば、かねて北海道の開拓にあたり、寒冷な気候の影響で稲作の普及は困難とされるなかで試行錯誤が重ねられ、明治六年に中山久蔵が札幌郡月寒村字島松(現・北広島市)で稲作に成功。その後も、品種改良による品質向上の努力が長く続けられてきたのである。
 一方で現在、温暖化にともなふ高温対策としての品質維持が課題となるなか、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構では、高温状況下でも収量や品質の低下が発生しにくい高温耐性品種を開発。また同機構では温暖化にともなふ春・秋の気温上昇から水稲の生育可能期間が長くなることを見越し、九州地域での二期作による収量増加の研究も実施してゐるといふ。

 主食である米の収量・品質への影響は、「斎庭の稲穂の神勅」を例に挙げるまでもなく我々にとっても大きな課題である。かつて先人たちは自然の働きに神々の存在を感じ、その恩恵に感謝を捧げるとともに、天災地変などに神々の祟りや怒りを認め、畏敬の念を抱きつつ神祀りを続けてきた。稲作こそ、さうした時に厳しい自然との共生のなかで営まれてきたといへよう。
 地球温暖化対策としての稲作をめぐるさまざまな取組みが、わが国における稲作の重要性、さらには先人たちの営為の再確認にも繋がることを期待したい。また温暖化をはじめ自然環境をめぐるさまざまな議論について考へるためにも、わが国における稲作と神祀りの歴史、さらには鎮守の杜の果たしてきた役割などを一つの端緒としながら、まづは広く問題意識の共有を図っていきたいものである。
令和三年八月三十日

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