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杜に想ふ 敬老の心 山谷えり子

令和3年09月02日付 4面

 空気が澄んできて、夕焼けが美しい。“夕焼け小焼けの赤トンボ”と口ずさみながら歩けば、秋の風物詩赤トンボは平均気温が二十二度から二十六度くらゐになった時に飛び交ふと、さういへば先生から教はったなぁなどと思ひ出す。新米の登場も心待ちである。
 今年の中秋の名月は九月二十一日。「名月を取ってくれろと泣く子かな」(小林一茶)といふやさしさいっぱいの句も思ひ出される。グーグルで検索すると“イズ・イット・ア・チャイルド・フー・クライズ・トゥ・テイク・ザ・ムーン?”といふ英訳も出てくる。何だかとても即物的説明的で、やはり日本語の情緒にはかなはないと得心する。
 敬老の日はハッピーマンデー制により、九月第三月曜日となった。今年は九月二十日である。昭和四十一年に「多年にわたり社会につくしてきた老人を敬愛し、長寿を祝う」日と法律で定められ祝日となった。
 令和二年の日本人の平均寿命は女性が八十七・七四歳、男性が八十一・六四歳となってともに過去最高となり、女性は世界一位、男性は世界二位である。おぢいちゃん力、おばあちゃん力を大切にし、寿ぐ文化としたいものである。
 平成二十一年、天皇陛下御即位二十年に際しおこなはれた天皇・皇后両陛下の記者会見で、今の上皇后陛下が高齢化についてお話になられたお言葉が忘れられない。「……高齢化が常に『問題』としてのみ取り扱われることは少し残念に思います。本来日本では還暦、古希など、その年ごとにこれを祝い、また、近年では減塩運動や検診が奨励され、長寿社会の実現を目指していたはずでした。高齢化社会への対応は様々に検討され、きめ細かになされていくことを願いますが、同時に九十歳、百歳と生きていらした方々を皆して寿ぐ気持ちも失いたくないと思います」と言はれたのである。
 日本のおぢいちゃん、おばあちゃんのしわはとても優しく美しい。西欧のやうなアンチエイジングを意識して年齢と戦ふといふ側面のある文化とは違って、年齢を受け入れ、達観し、命の流れを見つめながら、温かみやどっしりした重みを感じさせる風情の方にお会ひすると、ならうことなら私も精進し、そのやうになりたいと憧れる。
 私の祖母は学歴はなかったが、智恵があり、信仰心の強い人だった。「二十代遡ると、百万人の御先祖さまがをられるんだから、おまへはいぢけたり、ひがんだり、怠けたりしたら恥づかしいよ」「受けた御恩は石に刻み、かけた情けは水に流せ」など味のあることを言っては、違ふ次元に私を連れて行ってくれたものである。
 世界トップの長寿国では、目に見えない世界を感じる心、祈る心もまた豊かなはずである。重陽の節供には菊酒をいただき日本の幸せを感じたい。
(参議院議員、神道政治連盟国会議員懇談会副幹事長)

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