文字サイズ 大小

論説 収穫の季節に 稲作と祭祀伝統の継承を

令和3年10月11日付 2面

 前号掲載の通り、天皇陛下には九月二十一日、皇居内の水田でお稲刈りに臨まれ、お手づから御播種、お田植ゑをされた稲穂を刈り取られた。例年、収穫された稲は伊勢の神宮での神嘗祭に根付きのまま奉られてをり、また陛下には神嘗祭にあたって神宮に勅使を差遣され奉幣をおこなはせられるとともに、皇居内の神嘉殿で神宮を御遙拝になり、宮中三殿の賢所で御拝礼遊ばされて御告文を奏されてゐる。
 全国の神社でも神嘗奉祝祭が斎行されるが、新穀を天照大御神に捧げて収穫に感謝する神嘗祭を控へ、今年も各地で秋の収穫が得られてゐることを喜ぶとともに、宮中はじめ各地で稲作がおこなはれ、神々に感謝の祈りを捧げる祭祀が連綿と続けられてゐることに改めて思ひを致したい。

 神嘗祭においては、各地で育てられた稲穂も神宮に奉献されてゐる。伊勢市内では、その初穂を神域内に運び入れる「初穂曳」が執りおこなはれ、このうち豊受大神宮(外宮)での陸曳には全国の神社関係者なども参加してきた。ただ昨年に続き今年も、新型コロナウイルス感染症の蔓延状況に鑑み、初穂を載せた奉曳車が市内を練り歩く奉曳行事は已むなく中止となるやうだ。
 そもそも初穂曳は、昭和四十八年の第六十回神宮式年遷宮を契機に、遷宮におけるお木曳行事とお白石持行事の伝統を次世代に伝へることも意図して始められたといふ。遷宮行事の確実な継承に向けて、また、とくに今年は第五十回といふ大きな節目の年にあたってゐただけに洵に残念なことである。
 いふまでもなく、神宮においては二十年に一度、御社殿や御装束神宝を新調する式年遷宮が執りおこなはれてきた。遷御に至るまでの間、御用材を域内へ曳き入れるお木曳行事や新宮にお白石を奉献するお木曳行事を含め、数多くの祭儀・諸行事が続くが、振り返ればその中核となる平成二十五年の両正宮の遷御から早くも八年が経過してゐる。改めて新型感染症の収束を祈りつつ、遷宮行事の継承のためにも、来年こそ全国の神社関係者も参加のもと盛大に奉曳行事が執りおこなはれることを期待したい。

 コロナ禍においては、伊勢での初穂曳に限らず、各地の神社における神田でのお田植ゑや稲刈りなど、祭祀をともなふ稲作体験が規模縮小などを余儀なくされてゐるといふ。地元の園児や児童などが参列する事例もあり、神恩感謝の心の涵養、稲作と神祀りの伝統の啓発に資するなど意義深いものといへるだけに、その影響が懸念される。
 さうしたなか全国農業協同組合中央会(JA全中)では、「コロナ禍でも取り組める」として、「バケツ稲づくり」を勧奨。この「バケツ稲づくり」は、次代を担ふ子供たちに主食である米への関心と理解を深めてもらふことを趣旨に平成元年に始められたといふ。希望者には種籾や肥料等が送付され、バケツと土を用意すれば自宅の庭やベランダなどで比較的気軽に稲作が体験できるといふものだ。
 斯界でもJAとの連携のもと、各地の神社や指定団体・関係団体などが「バケツ稲づくり」を取り入れた事業などを実施してきたほか、神田の苗床を幼稚園・保育園や学校等に提供してプランターやバケツで稲作を体験してもらふなど独自の取組みも見られる。現在のコロナ禍といふ状況に限らず、広く関係者と連携しつつ稲作と祭祀の伝統継承に努めていきたいものである。

 わが国の農業とくに稲作をめぐっては、高齢化にともなふ後継者不足、従事者の所得の低下、米の需要減少等々、さまざまな問題が指摘されてきた。またコロナ禍は、かねて食料自給率の低下が課題となるなか、グローバル経済への依存による食料の安定供給への深刻な懸念を改めて認識させることともなった。
 収穫の季節を迎へ、今年も各地の神社から抜穂祭や稲刈り行事の報告記事が届いてゐるが、指定団体・関係団体はもとより、JAや地元の小・中学校などとも協力しつつ、稲作に関はる祭典・行事のさらなる振興が図られることを切に願ふものである。わが国において、神代の「斎庭の稲穂の神勅」に淵源する稲作と祭祀とが現在まで連綿と続けられてきたことの尊さを再確認しながら、その継承の重要性を引き続き訴へていきたい。
令和三年十月十一日

オピニオン 一覧

>>> カテゴリー記事一覧