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杜に想ふ 秋の楽しみ 八代 司

令和3年11月22日付 5面

 鎮守の杜の落葉樹や蔦の葉も、緑から黄や赤紅に色付き染めて、本格的な七五三の季節となった。先日、吾が子の七五三詣で産土神社にお参りをさせていただいた。小さな手で拍手を打ちお参りをする姿に、親としてのうれしさと祖先からつながる命のありがたさを感じつつ、子供の無事な成長へのお見守りを神様にお祈り申し上げた。
 ふと「百人一首」の名歌「このたびは 幣もとりあへず 手向山 紅葉の錦 神のまにまに」を思ひ出した。昌泰元年(八九八)に菅原道真公が宇多上皇の御巡幸に供奉された際、奈良の手向山八幡宮に参拝されたをり詠まれたものとして有名で、以前、京都の北野天満宮にお参りさせていただいた際には江戸時代中期に植ゑられた「手向山の楓樹」を拝見したこともある。
 実は先日、アイルランド御出身で和歌の翻訳家の方をさる方より御紹介いただいた。名刺にお住まひが京都の嵯峨小倉山とあったことから、開口一番「さすが藤原定家卿所縁の地にお住まひですね」と申し上げたところ喜んでいただき、その後の和歌談議のひと時も楽しいもので知己を得た感があった。後日、著書をお送りいただき、日本文学研究者として著名な方と知ってあらためて恐縮しつつも、このコロナ終熄の暁には、まづは北野天満宮にお参りさせていただいてから、小倉山にお訪ねをし、四方山談議と旬の物を肴に一献と想ひをめぐらせてゐる。
 さまざまな木々の葉が山風で吹き寄せられたさまから「吹き寄せ」と名付けられる日本料理や菓子がある。料理は主に前菜で「八寸」とも呼ばれる折敷や籠に栗や松茸、銀杏など、旬の食材で野趣溢れる趣向を凝らし、菓子の場合もまた然りで、彩りよく盛られ、さらには「富貴寄」や「富来寄」との当て字で目も心も楽しませてくれる。
 さて、気儘に出歩けない昨今、今流行りの「お取り寄せ」を季節ごとに楽しんでゐる。今秋は奈良吉野の名物で祭り御馳走であった「柿の葉寿司」。実はインスタグラムで映える画像を目にし、昨年から時季を心待ちにしてゐた。それは常に売られてゐる緑色の柿の葉とは異なり、紅葉した観る目にも色鮮やかな葉で丁重に包まれて折箱に詰められてゐる。
 鯖と骨董好きな親父と久しぶりに囲んだ食卓は、枯れた漆塗りのお膳での差し向かひ。母が用意した手塩皿は淡い桜柄で、春秋の吉野山を一目で楽しむことができたのもまた一興。敬愛する宮﨑義敬師が制作された朗読作品「たそがれ」に、登場人物の先生が小料理屋の新装記念にと請はれて「春には春のよろこび 秋には秋の楽しみ」と色紙に書いたとの件があったことを親子の会話とし、秋の夜長の楽しみとすることができた。
 いささか今回は山尽くしの駄文となったが、錦秋の山々の峰に鎮まります神々に今年も稔りの神恩感謝の祈りを捧げたい。
(まちづくりアドヴァイザー)

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