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杜に想ふ 出会ひ 神崎宣武

令和4年05月30日付 5面

 新幹線(JR東海・山陽)の車内誌『ひととき』(五月号)が届いた。「特集 郷土玩具」とある。
 じつは、私は、その取材行に同行してゐるのだ。二月下旬に二泊三日で、鹿児島と博多を巡った。編輯者、ライター、カメラマンと一緒で、時どきに印象を述べたり解説をする旅人役。さほどに労力を費やさない楽な立場であった。
 そこで思はぬ出会ひがあった。最終日に鹿児島市内で、中学三年生の“花乃さん”に会ったのだ。くったくのない表情ながらはにかみやさんの女子である。
 彼女は、郷土玩具が大好きだ、といふ。小学四年生の夏休みの自由研究で作った「郷土玩具図鑑」を見せてもらった。各県ごとに玩具一点づつ、一ページを使ってその由来や現状を記してある。そして、その立体図が色鉛筆(一部クレヨン)で描かれてゐる。正面と側面が描かれてゐるものもあれば、分解図が添へてあるものもある。前書き(玩具に興味をもった経緯)と参考文献を合はせて全五十ページの力作である。
 それが、全部手書きなのだ。写真の切抜き使用もなければ、ネット情報の引用もない。文献や写真を十分に解読したうへで、独自の紹介を試みてゐるのである。
 これには感心した。驚いた。効率よりも確認・確信を尊重してゐるのである。
 小学校六年生のときには、興味がわいた祝ひ鯛(静岡県)や倉敷張子(岡山県)、雉車(熊本県)などをとりあげ、さらに綿密な解読と解説を試みてゐる。中学生になってからは、父母の協力を得て各地のコレクションや製作の現場にも出かけてゐるのだ、といふ。
 この先、どう進化するのだらうか。彼女がアドバイスを求めてきたので、私は、一カ所なり二カ所なり自分との肌合ひのよいフィールド(調査地)を決めて、何度も足を運んで見聞を深めるのがよいのではないか。たとへば“おもちゃ神社”とも呼ばれ親しまれてゐる鹿兒島神宮の縁起物(鯛車・土鈴・初鼓など十二種類)を一手に引き受け、昔ながらの手づくりをしてゐる母娘の工房あたりをまづは訪ねてみたらどうか、と答へた。
 彼女は、しばらく考へて、小首を傾げながら言ったものだ。
 「もう少し待ってくださいね。私、今まで友だちと遊ぶ機会がほとんどなかったんです。郷土玩具女子で変人と思はれてもきたんでせうね。高校に進学したら、友だちと遊びたいんです」
 さうか、さうか、それもいいね。さう答へたら、彼女が顔を赤らめながら姿勢を正した。
 「私、大学では民俗学を勉強しますね。先生(私のこと)の神社も訪ねたいし、先生のお話をもっともっと聞きたいし……」
 それは、それは、といふしかない。さうなることを願ひもする。楽しい出会ひであった。
(民俗学者、岡山・宇佐八幡神社宮司)

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