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杜に想ふ 幸くませ 山谷えり子

令和4年06月06日付 5面

 ハナショウブ、アヂサヰ、六月の空に紫や白い花々に心がなごむ。アヂサヰの花は咲いたあと土壌の酸性度が高いとますます紫が濃くなり、低いと淡くなるといふ。土壌と花の関係の妙が示されてゐるやうで、生命の神祕性が思はれる。
 私ごとになるが、先月、フランス共和国から参議院日仏友好議員連盟会長として、レジオン・ドヌール勲章を賜った。明治時代には伊藤博文総理や横山大観らも受章され、身に余る光栄と感じてゐる。萩原朔太郎は「ふらんすへ行きたしと思へども/ふらんすはあまりに遠し」と詩にうたったが、私もフランスの文化、哲学から多くの影響を受けた。日・仏は魂への感覚の泉が深いところでつながってゐるのではないかと感じることがある。
 長く文化大臣を務めた作家アンドレ・マルローは、昭和四十九年五月、伊勢の神宮に参拝した折に、日本の霊的な有りやうと不滅性を感じ取り、「何物によってもこれほど高みまで昇華されることがない時のなかへの沈潜が徐々に私の胸をひたしていった」(マルロー『反回想録』)と語った。文化大臣時代のマルローは、フランスの文化を守り、予算を増やし、文化立国フランスの今日にいたる基盤を強化したが、私も自由民主党の文化関係の会長として、日本の文化政策強化に努め続けたい。
 大正時代の終はり頃、当時フランス大使であったポール・クローデルは、「日本人の魂へのまなざし」を発表し、日本文化の特徴である敬愛と清浄の概念に着目し、知性を超えた神祕を前にかしこみ、深く受け入れる日本人の姿に美徳を見出し、「日本では天皇は魂のやうに存在してゐる」と記すなど、優れた日本観を示された。
 一瞬と永遠を結びつけ、静けさと躍動を一つにしてしまふ両国民の感性は世界においてユニークで、暮らしの中にある祈りが感謝と喜びの美しい日々へとつないで、国と人々の品格の源になってゐるやうに思へる。
 日仏は、歌ごころ、言霊の国でもある。平成十八年、皇后陛下(現上皇后陛下)の御歌集がフランス語訳され、シラク大統領をはじめ多くの方々に読まれ、感想をお聞きできたことは日仏の魂、感性を合はせ鏡で見るやうで、また大いなる喜びであった。とりわけ、平成十六年の歌会始「幸」のお題で詠まれた御歌「幸くませ 真幸くませと 人びとの 声渡りゆく 御幸の町に」のフランス語はまことに美しい祈りの音で、うっとりしてしまった。
 令和六年には、パリでオリンピック・パラリンピック大会が、そして令和七年には、大阪・関西万博が開かれる。「幸くませ 真幸くませ」の日・仏の魂が、困難多き時代を、幸溢れる世界へと拓いていけるやう務めていきたい。
(参議院議員、神道政治連盟国会議員懇談会副幹事長)

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