文字サイズ 大小

論説 田植ゑの季節に 食の課題と米の再評価

令和4年06月13日付 2面

 天皇陛下には先月十八日、皇居内の生物学研究所脇の水田でお田植ゑに臨ませられた。
 天皇陛下が宮中で御親ら稲作り遊ばされる例は、昭和二年に昭和天皇がお開きになられた。上皇陛下には、新たにお手づから播種される新例を加へられ、その大御心を受け継がせられた。今上陛下にも、令和元年五月二十日に御即位後初めてのお田植ゑに臨ませられて以来、毎年の稲作りをお続けになられてゐる。
 秋に収穫された稲穂は、伊勢の神宮で斎行される神嘗祭に根付きのまま奉られ、また宮中神嘉殿で斎行される新嘗祭にも奉られてきた。神代の「斎庭の稲穂の神勅」に淵源する稲作と祭祀とを現代に継承されるお姿を拝し、その尊さに改めて思ひを致したい。

 農林水産省は五月二十七日、この稲作を含む農政に関して纏めた令和三年度の「食料・農業・農村白書」(農業白書)を公表した。その第一章「食料の安定供給の確保」では穀物等の国際価格について、ロシアによるウクライナ侵攻をはじめ、主要輸入国における需要増などの影響により値上がり傾向にあることを指摘。かうした世界的な食料価格の上昇はわが国にも影響し、食用油や小麦粉などの消費者物価指数が上昇傾向にあることにも言及してゐる。
 また、わが国の主要農産物の輸入構造について、少数特定国への依存度が高いことを示し、輸入相手国との良好な関係の維持・強化等を通じた輸入の安定化や多角化をはじめ、国内の農業生産の増大に向けた取組みが求められることを強調。地産地消・国産農林水産物の消費拡大、地域固有の和食文化の保護・継承の重要性にも触れてゐる。
 原材料価格や物流費の高騰などを背景とするさまざまな食品の値上げが報じられ、さらには世界保健機関(WHO)により世界的な食料危機への懸念も示されるなか、かねて指摘されるわが国の食料自給率の低下等について、改めて真剣に検討することが必要なのではなからうか。

 わが国の主食である米については、年間消費量の減少傾向が長く続き、とくに一昨年来の新型コロナウイルス感染症の感染拡大にともなふ業務用需要の減少は、その傾向に拍車をかける結果となった。コロナ禍に一定の落ち着きが見られる昨今は、飲食店の営業に係る規制緩和等にともなって消費量にやや恢復傾向も見られるやうだが、今後の長期的な見通しはいまだ不透明と言はざるを得ない。
 さうしたなか世界的な小麦価格の高騰を受けて、大部分を輸入に頼る小麦に変はり、国内自給率がほぼ一〇〇%の米への注目が昂ってゐるといふ。以前から農水省では、米消費拡大の取組みの一環として「米粉」の普及を目指してきた。米を粉末状にした米粉は、奈良時代から煎餅や和菓子に使はれてきたが、技術向上によってさらに細かい粉状とすることが可能となり、多様な加工品が作られるやうになってゐる。
 ウクライナ情勢の影響による食品価格の高騰に限らず、かねて世界的な人口増加等による食料需要の増大、新興国の経済発展にともなふ食生活の変化、気候変動・異常気象への懸念、また昨今のコロナ禍による生産・流通・需要への影響など、わが国の食料安全保障にはさまざまな課題がある。「米粉」のさらなる普及を含め、稲作をはじめ和食文化を見直すことのなかから問題解決の糸口を見出していきたい。

 田植ゑの季節を迎へ、本紙編輯部には全国各地からの田植ゑ行事の便りが届いてゐる。
 ここ数年のコロナ禍のなかで、神饌田などでおこなはれる祭典・行事も参列者の制限や規模縮小などさまざまな対応を余儀なくされてきた。ただ感染状況にやや落ち着きの見られる現状に鑑み、今年は従来に近い形で行事を再開するやうな事例もあるやうで、洵に喜ばしい限りである。
 まもなく全国的に梅雨入りを迎へる時期ともなるが、自然災害の頻発する近年、秋には豊かな稔りが得られるやう風雨の順調なることを改めて祈念したい。また、かうした田植ゑ行事などを通じ、稲作と祭祀の重要性について、その歴史・伝統の継承はもとより、わが国の食料自給率や食料安全保障を含めた課題との関はりのなかで考へていきたいものである。
令和四年六月十三日

オピニオン 一覧

>>> カテゴリー記事一覧