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論説 出生数の減少 出産や育児に希望と理想を

令和4年06月20日付 2面

 厚生労働省は六月三日、人口動態調査に基づく「令和三年(二〇二一)人口動態統計月報年計(概数)」を公表した。この調査は、わが国の人口動態事象を把握し、人口及び厚生労働行政施策の基礎資料を得ることを目的に実施。令和三年において発生した日本人の出生、死亡、婚姻、離婚及び死産の全数を対象としてゐる。
 かねて指摘される少子高齢化の進行は、労働力不足による経済活動の停滞、ひいてはわが国の国力低下を齎し、身近な例を挙げれば、将来の生活のための公的年金制度も破綻させかねない。斯界としても、神社を支へる基盤である地域社会における構成員の状況・変化は、祭祀祭礼の継承をはじめ今後の護持運営を左右するものといへよう。過疎地における神社振興、不活動宗教法人の存在などといった課題に鑑みても、昨今の人口動態の状況は決して等閑視できる問題ではない。



 今回公表された調査結果によれば、昨年一年間の出生数は明治三十二年の統計開始以降で最少となる八十一万千六百四人で、前年度比二万九千二百三十一人の減。これまでの推移を見ると、昭和二十四年の二百六十九万六千六百三十八人をピークに、昭和五十年以降は増減を繰り返しながら減少傾向が続き、平成二十七年には五年ぶりに増加したものの、以降は六年連続の減少となってをり、昨年はピーク時の三割程度にまで落ち込んでゐる。
 このほか死亡数は百四十三万九千八百九人で戦後最多となり、出生数から死亡数を引いた自然増減数は過去最大となる六十二万八千二百五人の減少。この減少幅は、人口の少ない県の全人口に相当するほどの数だ。また、婚姻件数は戦後最小の五十万千百十六組で、平成十四年から減少傾向が続いてゐる離婚件数は十八万四千三百八十六組だった。
 もとより出生数や人口の減少は一朝一夕に解決できるやうな問題ではなく、ここ数年は新型コロナウイルス感染症の影響によって出産・結婚を控へるやうな傾向もあったやうだが、より広く危機感を共有しつつ対応を検討していかなければならない。



 かうした出生数や人口の減少への対策の一環として、政府はこの四月から不妊治療に関する公的保険の適用対象を拡大。人工授精等の一般不妊治療、体外受精・顕微授精等の生殖補助医療など高額治療も対象とすることで、経済的な側面から支援の充実を図ってゐる。年齢や回数に制限はあるものの、子供を産み育てたい夫婦にとっては歓迎されるものだらう。
 また来年四月に設置が予定されてゐる「こども家庭庁」においては、「結婚、出産又は育児に希望を持つことができる社会環境の整備等少子化の克服に向けた基本的な政策に関する事項の企画及び立案並びに総合調整」などもおこなふといふ。さらにこの十月からは、男性の育児休業取得促進のための関連法も改正施行される。
 女性の社会進出にともなふ共働き家庭の増加、非正規雇用など経済不安を抱へる若者の存在、子育て世代の孤立等々、出産・育児をめぐっては個人だけでは解決できないさまざまな課題がある。わが国の将来を見据ゑ、公的機関による対策のさらなる充実が期待されるところだ。



 不妊治療における保険適用の拡大は、いはゆる「子供は欲しいができない」場合の支援として、もちろん大切である。一方、価値観の多様化が進むなかで「子供は欲しくない」、さらには、そもそも「結婚したくない」といふ若者たちが極端に増加するやうなことも課題として考へられよう。さうした意味では、「子供は欲しいができない」といふ場合の支援に加へて、「こども家庭庁」がおこなふ予定の「結婚、出産又は育児に希望を持つことができる社会環境の整備」といふやうな取組みの重要性も増してゐるといへる。
 結婚・出産・育児に希望を持ち、さらにそれを理想とも捉へられるやう、斯界においても初宮参りや七五三詣、神前挙式などを通じ、地域社会において氏神に見守られながら暮らすことの意義など、先人たちの営みを顧みつつ人生・家庭生活のあるべき姿を説いていきたい。一方的に価値観を押し付けるのではなく、例へば人生の先輩として背中で示していくやうなことも求められるのではなからうか。
令和四年六月二十日

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