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鎮守の森の過去・現在・未来~そこが知りたい社叢学~ 社叢をめぐる法律問題―実務上の留意点―(二) NPO法人社叢学会理事 秩父今宮神社宮司・弁護士 塩谷 崇之

令和4年07月11日付 5面

利害調整の方法 踏まへるべき点

 前回は、鎮守の森が失はれてゆく原因をはじめ、社叢を守ってゆくための神社界における規制、また行政による公的規制について概説した上で、近隣住民との関係調整の必要性を述べた。今回は、近隣住民との利害調整にあたり、神社側は、何を踏まへておかなければならないか具体的に説明してゆきたい。

(ア)隣接所有者からの伐採要求への対応
 法律上、樹木は土地の一部として土地所有者の所有に属する。土地の境界を越えて生ひ茂る竹木の処理について、民法は、隣地所有者は枝葉の剪除を求めることができ、竹木の根が境界線を越えるときは、隣地所有者は自らその根を剪除することができる旨を定める。境内地からはみ出した樹木の枝や根は、隣地の所有権を侵害するものであるから、剪除しなければならないといふことである。
 しかし、無秩序に枝を伐採し、あるいは根を切除することは樹木の生命を脅かすこととなる場合もある。この点、越境が隣地所有者に与へる損害が極めて僅少な場合、剪除によって恢復する利益に比して、樹木所有者の受ける損害が不当に大きい場合に、隣地所有者からの伐採要求は「権利濫用」にあたるとして、「越境樹枝の剪除を行うに際しても、単に越境部分の全てについて漫然それを行うことは許されず」「当事者双方の具体的利害を充分に較量してその妥当な範囲を定めなければならない」とした裁判例が注目される(昭和三十九年新潟地裁判決)。
 大きく枝を広げる神社の御神木などは、隣地所有者がその土地を取得する何十年も前から、境界を越えて聳え立ってゐたやうなことが多く、そのやうな場合に、新たにその土地を取得した隣地所有者が、境界を越える枝の伐採を求めるのは不当であるから、隣地からの伐採要求も「権利濫用」として制限されるべきであらう。

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