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杜に想ふ 志を未来へ 山谷えり子

令和4年08月01日付 6面

 暑さの中、稲は開花、結実への大事な時期を迎へる。早稲の穂が実るこの時期に、八月一日を八朔「田の実」の節供として初穂を親しい人に贈る風習がなつかしく思ひ出される。「ねぶた」や「竿燈まつり」など、東北地方では大きな祭りがおこなはれ、日本各地での祭り、花火大会やお盆など、先祖の霊とともに敬神崇祖の心を深くする季節でもある。
 そんな中で、安倍元総理の亡くなられた喪失感は日に日に大きくなるばかりである。私は、小泉内閣の安倍官房長官のもと、担当政務官として毎日のやうに各役所の分厚い書類を夜中に読み続けたことや、第一次安倍内閣では教育再生担当の総理大臣補佐官として、教育正常化のために戦ったこと、日本を取り戻す「美しい国づくり」を掲げた第二次安倍内閣では、二度にわたって国の基盤を守る治安や防災、国土強靭化、海洋政策、領土問題、拉致問題担当大臣を務めながら、総理のリアリズム、戦略性、実務能力と、あたたかで強い責任感を合はせもったリーダーシップに尊敬の念が強まるばかりであった。
 橿原市の病院で死亡が確認されたと聞いた時、初代・神武天皇の橿原奠都の詔が思ひ出された。『日本書紀』に記されてゐる詔を大胆に要約すれば、「一人ひとりが大切にされる国を作りたい」「徳のある国を作りたい」「家族のやうに仲睦まじく平和に暮らす国を作りたい」といふ三つの建国の理念であるが、「美しい国、日本を取り戻す」と言はれてゐた安倍元総理の国を愛する思ひの深さと瞬時につながって、私の胸を刺し、その御遺志をついで何としても本来の日本の国柄が輝くやう、未来につなぐやう努めねばならないと、魂魄が雄叫びをあげるやうであった。それは神道政治連盟国会議員懇談会の会長を長くつとめられた安倍元総理の願ひであったらうと思ってゐる。
 失はれた大きさは埋めやうもないが、メディアがこのたびの参議院選挙の争点としてあげた物価対策や外交、安全保障の強化と同時に、憲法改正、皇位の安定継承のための法整備を実らせていくことこそが残された者の責務であると感じてゐる。
 平成十八年七月、第一次安倍内閣の誕生前に出版された「美しい国へ」(文藝春秋)をこの夏何度も読み返してゐる。本の帯には「自信と誇りのもてる日本へ」とある。内容は、わたしの原点、自立する国家、安全保障と社会保障、対米そしてアジア諸国との関係、少子国家の未来、教育再生……と、明治以来最長の内閣を率ゐた指針の原点が鮮やかに明示されてゐる。国の名誉と国益を守り、「わたしは常に闘ふ政治家でありたい」と働き続け、政治は未来のためにあると次の世代に希望を託しながら歩まれた姿を思ひ、国民こぞって心をひとつに九月の国葬にのぞめたらと願ってゐる。
(参議院議員、神道政治連盟国会議員懇談会副幹事長)

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