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論説 歌会始の儀 心和む平和な日常の訪れを

令和6年01月29日付 2面

 今号掲載の通り、新春恒例の歌会始の儀が一月十九日に皇居・正殿「松の間」で執りおこなはれた。
 昨年五月八日に新型コロナウイルス感染症の法律上の位置付けが五類へと引き下げられて以降、初めてとなった今回の歌会始の儀。陪聴者の人数は引き続き疫禍前より少なかったものの、マスク着用を個人の判断に委ね、諸役間のアクリル板の設置を取り止めるなど、従前に近い形での実施となった。
 まづ以て、年の始めの歌会として御歴代によって催されてきた宮中での歌会始の儀が、このたびの疫禍なども経ながら国民参加の文化行事として今日まで続いてゐることを慶びたい。


 今回の歌会始の儀において天皇陛下には、行幸啓などで各地を訪れられた際、お会ひになられた人々の笑顔を御覧になって御自身の御心も和んでいらっしゃる叡慮をお詠みになられた。また皇后陛下の御歌は、愛子内親王殿下が平和への願ひを中学校の卒業文集の作文にお書きになられたことを感慨深く思召され、そのお気持ちをこめられたものだといふ。
 天皇・皇后両陛下の地方への行幸啓に際しては、斯界関係者も友好団体などと協力して奉送迎行事等をおこなってきたが、行在所前での提灯奉迎に対する御答礼やおねぎらひの「おことば」などはたいへんありがたく、恐懼の極みとして受け止めてきた。今回の御製を拝し、皇室敬慕の念のさらなる喚起・醸成に向けた一層の尽力を誓ひ、その決意を新たにしたいものである。


 今年は宮中での歌会にあたって明治七年に一般の詠進が認められてから百五十年の節目の年にあたってゐる。今回の歌会始の儀に際しては約一万五千首の詠進歌が寄せられ、そのなかから選ばれた預選歌十首が御前において披講されたが、預選者のなかには一月一日に発生した令和六年能登半島地震において震度五強の観測が報じられた石川県かほく市の職員の姿もあった。地震対応に追はれるなか出席の辞退を考へたものの、上司らが「少しでも明るい話題を石川県に提供してほしい」と温かく送り出してくれたといふ。
 能登半島地震について宮内庁は一月五日、「特に、昨年ご訪問になり、県民の皆様に温かく迎えられた石川県において、多くの犠牲者が生じ、今なお安否が不明の方や避難を余儀なくされている方が多いことに深くお心を痛めておられます」と両陛下の御様子に触れた上で、犠牲となった人々に対するお悼み、被害を受けた人々に対するお見舞ひのお気持ち、災害対策のために尽力してゐる関係者に対するおねぎらひのお気持ちを、侍従長を通じて石川県知事にお伝へになられてゐることを発表。また、一月十五日に警視庁創立百五十年記念式典に御出席遊ばされた天皇陛下には「おことば」のなかで今回の地震に触れられ、犠牲者に哀悼の意を表されるとともに遺族と被災者へのお見舞ひをお伝へになられた上で、「救援と復旧の作業が速やかに進むことを心から願っています」と述べられてゐる。
 今回の歌会始の儀について石川の地元紙などでは、県内から三十四年ぶりの入選と報じてゐる。いまだ厳しい状況が続く被災地にとって、震災対応に追はれる自治体職員の歌会始の儀における預選の栄が、一つの明るい話題となることを切に願ふものである。


 今年は能登半島地震をはじめ、翌二日の羽田空港での航空機事故など、わが国においては異例の年明けとなった。また、ややもすれば連日の地震報道に注目が集まりがちだが、海外に目を転じれば間もなく三年目を迎へるロシアによるウクライナ侵攻や、イスラエルとパレスチナ武装勢力との衝突の長期化・泥沼化など、多くの尊い人命が失はれるやうな痛ましい事態が各地で生じてゐる。
 勅題「和」を賜り執りおこなはれた今年の歌会始の儀にあたっての天皇陛下の御製、皇后陛下の御歌を拝し、能登半島地震の被災地の人々に一日も早く「笑顔」が戻ること、そして、すべての人々に心和む平和な日常が訪れることを改めて祈念したい。加へて、明治七年の一般詠進の認可から百五十年の節目に際し、新春恒例の宮中での歌会始の儀が、皇室と国民の心とを親しく結ぶ麗しい伝統行事として、今後も連綿と続いていくことを心より望むものである。
令和六年一月二十九日

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