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論説 憲法改正に向けて 自衛隊明記に充分な検討・工夫を

令和6年05月13日付 2面

 憲法改正を目指す我々の国民運動に、やうやく曙光が見えてきた。
 自由民主党総裁の岸田文雄首相は、自分の任期中に憲法改正を実現したいとの思ひを、これまでに何度も言明してきた。それを受けて自民党は三月の党大会で、憲法改正の本年中の実現を目指す運動方針を決定した。その責任を託された古屋圭司憲法改正実現本部長は、すでに党として憲法改正研修会等を全国各地で千三百七十回開催し、国民の理解の深化に努めてきてゐる。
 一方国会では、衆参両院に設置されてゐる憲法審査会が、自民党の主動のもとで国会開会中に週一回の開催を目指してきた。それでとくに衆院では、一昨年と昨年に亙って各々二十回前後の実質論議を重ね、現行憲法にはない自衛隊の明記と緊急事態対応を中心に論点の集約を図ってきた。現在は条文草案作成の起草委員会設置の議論の段階にまできてゐる。


 かうした状況下で五月三日に都内で開催された今年の公開憲法フォーラムでは、登壇した各界代表から憲法改正草案の早期作成に向けた有意義な提案があり、また各政党の代表からは改憲の意思表明がおこなはれて洵に時宜を得た集会となった。神道政治連盟も参画するこのフォーラムは、「二十一世紀の日本と憲法」有識者懇談会(通称・民間憲法臨調)と美しい日本の憲法をつくる国民の会が共催して毎年の憲法記念日に開催してゐるもので、今年ですでに二十六回目を数へる。
 政党では、自民党と公明党に加へ改憲に積極的な野党の日本維新の会と国民民主党が出席してゐたのが頼もしかった。とくに維新、国民、有志の会の三者はすでに昨年、国家緊急事態対応条項の共同条文案を作成してをり、維新は九条に自衛隊を明記する草案の発表もおこなってゐる。これら四党一会派で改憲に必要な三分の二以上の勢力を形成してをり、結束して条文案を取り纏めて国会議決に持ち込めば、国民投票への道が開かれることにならう。


 現行憲法が施行されてからすでに七十七年が経過した。自主憲法制定を党是として結党した自由民主党は来年七十周年の節目の年を迎へる。この間一度も改正を見てゐないのは、わが国だけの異常な事態といはねばならない。
 朝鮮戦争開始後のまだ米軍占領下で作られた警察予備隊を前身とする自衛隊が発足して、今年でちゃうど七十年となる。現行憲法は敗戦後にGHQによって帝国憲法が改変を余儀なくされ、第九条の二項で「陸海空軍その他の戦力」と「国の交戦権」の一切を否認されたままで、また外部からの武力攻撃や大規模自然災害などによる非常事態や緊急事態も想定されずに欠落してをり、すべて占領米軍が対応する前提で作られたままなのだ。それゆゑ政府の公権解釈では、自衛隊は「軍隊」ではなく「その他の戦力」でもないとされ、他方、自衛隊を実質軍隊と見なす憲法学者らによっては違憲の存在と見なされて、不幸にもその存在が糾弾されてもきた。その結果、自衛隊は国際法的には軍隊だが国内法的には軍隊ではない、などといふ明らかに矛盾した解釈が罷り通る不安定な状況に置かれてきたのである。
 今や国際社会は歴史的な大変化に直面してゐる。なかでもわが国は中国、北朝鮮、ロシアといふ軍事的に恐るべき国々に近接して戦後最も厳しく複雑困難な安全保障環境に置かれてゐるのだ。自衛隊を今後ともこのやうな矛盾した、曖昧で不安定な状態のまま残しておくことは政治的にも道義的にも許されることではない。さうした現状も踏まへ、九条二項を残して単に自衛隊を明記するだけでは本質的な解決にならないと訴へる国民民主党・玉木雄一郎代表の改憲見解などは傾聴に値するものといへる。憲法改正において、とくに自衛隊明記の条文化の文言には充分な検討と工夫が必要とされよう。


 現在国会は、依然として自民党の政治資金問題で揺れ動いてをり、年内の改憲実現の見通しは立ってゐない。
 憲法審査会における真剣議論の障碍になってゐるのは、野党第一党の立憲民主党の抵抗姿勢である。憲法改正は国家国民にとっての一大事案とはいへ、改憲反対に固執する勢力はもとより、すべての政党を入れての大同団結などはあり得ない。憲法審査会の運営において主動的な立場にある自民党の決断に期待するところ大である。
令和六年五月十三日

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