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論説 更生保護と保護司 地域に寄り添ふ神職として

令和6年05月20日付 2面

 法務省は五月一日、新たに製作した「社会を明るくする運動」の広報ポスター及びCM動画について発表した。
 社会を明るくする運動は、すべての国民が、犯罪や非行の防止と、犯罪や非行をした人たちの更生について理解を深め、それぞれの立場において力を合はせ、犯罪や非行のない安全で安心な明るい地域社会を築くための全国的な運動。例年、「更生保護の日」の七月一日からの一カ月間を強調月間としてさまざまな活動が展開されてゐる。
 新たに製作されたポスター及びCM動画が、更生保護の意義はもとより更生保護に携はる関係者の存在や役割についての国民の理解をより深めるきっかけとなることを願ふものである。


 令和三年から昨年までのポスターでは、「#生きづらさを生きていく。」との文言を使用。新型感染症の蔓延により孤独や孤立といった「生きづらさ」が改めて浮き彫りとなるなど誰もが「生きづらさ」を抱へる困難な時代にあって、人々が寄り添ひながら生きていくことの大切さが表現されてゐた。今年は、その文言を「想う、ときには足をとめ。」に一新。情報通信技術の進展等による生活様式の変化にともなひ、「待つこと」や「時間をかけること」の価値が失はれつつあるなか、更生に寄り添ふ人々にとっての立ち直りを「待つ時間」について、人が「変はっていく時間」、人を信じてともに「寄り添ふ時間」と捉へ、その重要性などを訴へてゐる。
 もちろん疫禍収束により孤独や孤立を背景とする「生きづらさ」が解消されたわけではなく、更生保護の現場では依然として「生きづらさ」に直面することも少なくないだらう。またコスパ(コストパフォーマンス)、タイパ(タイムパフォーマンス)などの言葉に象徴されるやうに、昨今は経費・時間に対する効率がことさら重視される場面もある。さまざまな変化のなかで「生きづらさ」を抱へがちな現代社会において、更生保護に限らず経費・時間に代へがたい価値の存在を改めて考へるやうなことも必要なのではなからうか。


 更生保護をめぐっては、犯罪や非行に到った人の立ち直りを地域で支へる存在として、法務大臣から委嘱された非常勤の国家公務員「保護司」が民間ボランティアとして活躍してゐる。約四万七千人の保護司には四百五十人ほどの神職も含まれてゐるが、保護司の数は長く減少傾向が続いてをり、また七十歳代が増加するなど平均年齢の上昇が顕著になってゐるといふ。
 さうした現状なども踏まへ、法務省では昨年五月に「持続可能な保護司制度の確立に向けた検討会」を設置。保護司の待遇や活動環境、推薦・委嘱の手順、年齢条件及び職務内容等に関する議論を進めてきた。今年三月の「中間とりまとめ」においては、保護司候補者の公募の試行、新任委嘱時の上限年齢(原則六十六歳以下)の撤廃、任期(二年)の見直し、報酬制導入の可否についての検討継続、「持ち出し」(経費の自己負担)の軽減の検討――などが盛り込まれてゐる。今後さらなる意見交換を経て最終的な報告書が纏められるとのことで、充分な議論に基づき然るべき措置が講じられることを期待したい。


 昭和二十五年に制定された保護司法の第一条によれば、「社会奉仕の精神をもつて、犯罪をした者及び非行のある少年の改善更生を助けるとともに、犯罪の予防のため世論の啓発に努め、もつて地域社会の浄化をはかり、個人及び公共の福祉に寄与する」ことが保護司の使命とされてゐる。このうち「浄化」といふ文言に関しては前述の「中間とりまとめ」のなかで、「悪いことをした人を排除するというイメージがつきまとう」との違和感も紹介されてをり、確かに現在の更生保護においていはれる「立ち直りに寄り添ふ」「誰一人とり残さない」などの表現とは、やや意味合ひの相違も感じられる。
 いづれにしても地域社会を基盤とする神社に奉仕する神職として、保護司を務める場合に限らず、犯罪や非行のない安全で安心な明るい地域社会の実現のため、更生保護や保護司をめぐる現状・課題について理解を深めておくことも大切だらう。神職として心身の清浄を期して自らを厳しく律することはもとより、常に氏子・崇敬者に寄り添ひながら「世のため人のために奉仕し、神のみこともちとして世をつくり固め成す」ことに努めたい。
令和六年五月二十日

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