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論説 食料・農業・農村基本法 瑞穂の国の歴史・伝統を顧み

令和6年05月27日付 2面

 「農政の憲法」といはれる食料・農業・農村基本法の改正案が今国会に提出されてゐる。すでに四月には衆議院で可決され、現在は参議院で審議がおこなはれてゐるところだ。
 その改正理由においては、近年の世界的な食料需給の変動、地球温暖化の進行、わが国の人口減少その他の食料・農業及び農村をめぐる諸情勢の変化に言及。食料安全保障の確保、環境と調和のとれた食料システムの確立、農業の持続的な発展のための生産性の向上、農村における地域社会の維持等を図るため、基本理念を見直すとともに、関連する基本的施策を定める必要があるとの考へが示されてゐる。
 同法は、平成十一年の施行から四半世紀を経て今回が初めての改正となる。改正理由にある通り、この間、わが国の食料・農業・農村をめぐってはさまざまな変化があり、将来的な課題も山積してゐる。今後の審議の行方を注意深く見守りたい。


 今回、ロシアによるウクライナ侵攻を背景とする食料危機への懸念などから、食料安全保障への関心が昂るなかでの法改正といへよう。ただ食料・農業・農村をめぐっては、かねて食料自給率の低下、農業従事者の減少、過疎化にともなふ農村の疲弊などさまざまな課題が指摘されてきた。
 例へば、普段仕事として主に自営農業に従事してゐる「基幹的農業従事者」の数は、昭和五十一年の五百三万四千人から昨年は百十六万四千人にまで減少。しかも、このうち六十五歳以上の割合が八割を占め、平均年齢が六十八・七歳となるなど、このままではさう遠くない将来、農業従事者が激減することは明らかだ。若者たちが職業として農業を選択するためには、それが生業として成り立つことが欠かせない。近年、農産物の輸出拡大に一定の成果も見られるが、なにより国内において国民の理解のもと生産コストに見合った価格形成が図られることが重要とならう。
 法改正についての国民的な関心はやや稀薄に感じられ、もとより法改正によっても課題の解決は決して容易ではないが、まづは国会審議を契機にわが国の食料・農業・農村をめぐる現状について理解を深めたい。


 先に触れた「基幹的農業従事者」は、それぞれの地域共同体において農耕儀礼や神社の祭礼行事を中心的に担ってきた人々ともいへる。その減少は、農耕儀礼や祭礼行事の護持・継承を困難にするだけでなく、神社における役員・総代の後継者不足などにも少なからず影響するだらう。
 さうした農業従事者の減少に対し、斯界が直接に果たし得る役割は限定的かも知れない。ただ全国各地で神社庁や支部、神道青年会・氏子青年会などにより田植祭や抜穂祭が斎行され、あはせて田植ゑや稲刈りの体験行事などもおこなはれてゐる。子供たちが地域の歴史・伝統を学ぶ機会として、また食育推進の一環として学校等にも呼び掛けて参列者を募るなど、より積極的に祭典・行事を執りおこなふことで、その振興だけでなく、食料・農業・農村をめぐる現状と課題についての意識喚起を図っていくことは可能ではなからうか。
 もちろんすぐに成果が表れるやうな活動ではないかも知れないが、さうした地道な取組みを継続することで、わが国の次代を担ふ子供たちに農業や稲作をはじめ、それにともなふ祭典・行事を含め、先人たちの営みの尊さを伝へていきたいものである。


 今号掲載の通り、天皇陛下には今年も皇居で稲作にお取り組み遊ばされてゐる。収穫された稲穂は宮中神嘉殿での新嘗祭に供へられ、また伊勢の神宮での神嘗祭にも奉られる。その神宮をはじめ全国の神社でも毎年、豊穣祈願と収穫感謝の祭祀が斎行されてゐるが、とくに神嘗祭は神宮至高の神事として年間千五百回に及ぶ恒例祭祀のなかで最も重視されてきた。
 先月八日には、「大神嘗祭」とも称される神宮式年遷宮の御準備について天皇陛下から御聴許を賜った。いよいよ始まる奉賛活動において、「斎庭の稲穂の神勅」をはじめ、第十代・崇神天皇による「農は天下の大きなる本なり。民の恃みて生くる所なり」との詔を顧みつつ、稲作と祭祀とが連綿と受け継がれてきたわが国の国柄との関はりのなかで、食料・農業・農村をめぐる課題についても考へていきたい。
令和六年五月二十七日

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