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論説 御樋代木奉曳式 式年遷宮に如何に臨むのか

令和7年06月30日付 2面

 前号掲載の通り、伊勢の神宮において去る六月九・十の両日、御樋代木奉曳式が執りおこなはれた。
 奉曳された御樋代木は、御神体をお納めする御樋代を奉製するための御料木。長野県木曽郡上松町における六月三日の御杣始祭と、岐阜県中津川市における同五日の裏木曽御用材伐採式で奉伐されてゐる。長野・岐阜・愛知・三重で盛大に「御神木奉迎送」を受けながら伊勢へと奉搬され、皇大神宮(内宮)では川曳により、また豊受大神宮(外宮)では陸曳によって、それぞれ無事に神域へと運び入れられた。
 五月二日の山口祭に始まった第六十三回神宮式年遷宮における諸祭・諸行事。その順調な進捗を慶ぶとともに、いよいよ本格化する奉賛活動に向けて決意を新たにしたいものである。


 今回の御杣始祭に際しては、神宮の地元・三重県のテレビ局が生中継番組を放送。そのウェブ配信もおこなったことで、放映地域以外でも厳粛な祭儀と、杣夫による迫力ある奉伐の様子を即時に視聴することができた。また、伐り出された御料木の伊勢奉搬に際しての「御神木奉迎送」は各地でたいへんな盛り上がりとなったやうで、沿道にあたる各県の人々を中心に広く式年遷宮の始まりを実感させる機会ともなったのではなからうか。
 昨今は情報技術の著しい発展により、報道・広報のあり方も大きく変化してゐる。式年遷宮に関する情報発信の方途についても、改めて工夫・検討していくことが求められよう。その一方で、「御神木奉迎送」に限らず祭礼や行事などにおいて、実際にその場に臨んで雰囲気・熱気を体感することが、何より人々に深い印象を与へ、また大きな感動をもたらすことは今も昔も変はらない。
 遷宮完遂に向けた奉賛活動の推進にあたり、式年遷宮の意義や尊さを説くとともに、情報発信のあり方、そして人々の心を動かす方途などについても意を注ぎたい。


 今後、前回の例に倣へば九月には御樋代を納める御船代の御料木を伐採する御船代祭が斎行され、さらに来年には御木曳初式や木造始祭に続き、御用材を内・外両宮に曳き入れるお木曳行事が執りおこなはれることとなる。
 このお木曳行事については今上陛下にも皇太子時代の平成十九年、さらにその二十年前の昭和六十二年に、御親ら曳綱をお持ちになられて御体験遊ばされてゐる。地元の旧神領民に加へ、全国の神社関係者なども特別神領民として参加が認められ、式年遷宮を体感できる諸行事の一つとして貴重な機会といへよう。すでに各神社庁を通じた参加申込みの手続きが進められてをり、来年のお木曳行事の盛況が期待されるところだ。
 先月の神社本庁五月定例評議員会においては、東海地区からの提出議案として「第六十三回神宮式年遷宮の諸祭が始まる年にあたり、募財活動を含めた国民総奉賛の実を挙げるべく、活発なる啓発運動を各方面に展開せられるやう、神社本庁に要望するの件」が決議された。東海地区に限らず、斯界挙げて啓発運動を展開し、さらなる気運醸成に努めていかなければならない。


 振り返れば戦後、いはゆる「半官半民」といはれた昭和二十八年の第五十九回式年遷宮の後、初めて準備段階から国家との関係を断たれ、すべてが試行錯誤のなかで進められた昭和四十八年の第六十回、その成果と課題を踏まへて取り組んだ平成五年の第六十一回、そして早くから全国的な広報活動に努めた平成二十五年の第六十二回まで、先人たちはその時々の社会状況や問題意識を踏まへつつ、式年遷宮の完遂のために尽力してきた。さうしたなかでは、神宮の真姿顕現に向けた取組みをはじめ、奉賛活動・広報活動における重点や力点などに多少の差異もあっただらう。
 近く、神宮大宮司の諮問に応じて重要事項の調査・協議をおこなふ審議機関「神宮式年遷宮委員会」の第一回会合も開催される予定と聞く。そこでの審議を経て、式年遷宮の募財活動を中心的に担ふ奉賛組織の設立準備なども順次始まることとならう。
 今回、現在の社会状況をどのやうに認識し、如何なる問題意識を持って式年遷宮に臨むのか。神社関係者一人一人が自らの課題として考へていきたいものである。
令和七年六月三十日

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