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神社新報社時の流れ研究会 第六回見解 ―内閣「式典委員会」での検討にあたり― 平成三十年十月一日 (1面参照)

平成30年10月01日付 4面

はじめに 本会ではこのたびの御代替はりにあたって「皇位の継承に伴ふ祭典・儀式・式典」などに関はる見解・要望・具体的提案等を、昨平成二十九年五月、「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案」の国会での審議以降、本年一月までの間、五回にわたり神社新報紙上で公表してきた(神社新報社ホームページに掲載)。
 本年八月一日、「皇位継承式典事務局」が内閣官房と内閣府の共同組織として設置され、そして十月には、内閣総理大臣を委員長とする「天皇陛下の御退位及び皇太子殿下の御即位に伴う国の儀式等の挙行に係る式典委員会」が内閣に、また内閣官房長官を本部長とする「式典実施連絡本部」が内閣府に設置される予定で、本年四月三日に閣議決定された「天皇陛下の御退位及び皇太子殿下の御即位に伴う国の儀式等の挙行に係る基本方針」(以下、「基本方針」といふ)を踏まへて、皇位継承に伴ふ儀式・式典の具体的な次第・内容が検討され、年内には決定されることが予測される。
 それらの検討に際し、これまでの本会の見解・要望と「基本方針」とを勘考し、祭典も含めた、より適切なあり方について本会の「見解」をあらためて公表する。なほ、付載の「皇位継承に伴ふ祭典・儀式次第(案)」も参照されたい。

【一】儀式・祭典のあり方についての本会の基本的見解 これについて本会の従前の基本的見解をあらためて提示する。
 一、このたびの御代替はりは、明治以降の例と異なり、崩御ではなく、御譲位(退位)に伴ふことから、それを踏まへて各儀式・祭典にあたっては関連する旧登極令・旧皇室祭祀令等を参酌して、とくに宮中三殿及び神宮・山陵を主体とする祭祀のご斎行を望む。
 二、このたびの皇位継承に関はる儀式・祭典は、皇室の歴史・伝統に則って能ふ限り古儀・先例を尊重し、後世の適切な指針となることを望みたい。

【二】皇位の継承に伴ふ祭典・儀式の検討 この適切なあり方を検討する場合、明治以降の先例とは異なる基本的な前提状況は、このたびの皇位の継承が崩御ではなく、御在位中になされることである。これを踏まへて適切な検討が必要となる。
 また、これまでの政府の検討では「国の儀式」を主に対象とするため、「皇室の行事」である、関連する祭典(祭祀)については現在まで未発表であるが、当然、掌典職によって歴史・伝統・先例などを尊重して適切なあり方が検討されてゐると拝察され、宮内庁において、政府「式典委員会」での検討にあはせて決定、発表されることになるであらう。
 なほ、大嘗祭をはじめ宮中三殿、神宮、山陵での諸祭儀は憲法に規定する「国事行為」ではなく、「皇室の公的行事」として取り進められることと見られるが、皇室の伝統的な儀礼は本質的にこの部分にあることを十分認識の上、準備を整へられることを望みたい。

[A]御譲位(退位)に伴ふ祭典・儀式
(1)御譲位(退位)に伴ふ祭典
 このたびの「御譲位(退位)に伴ふ祭典」は、崩御を前提とする旧登極令、旧皇室祭祀令には規定されず、近代以降における新儀となる。これらは「御即位に伴ふ祭典」と同様、宮中三殿及び神宮・山陵を主体とし、可能なかぎり鄭重を期し、「皇室の公的行事」にふさはしい次第・内容となることを望みたい。
 即位礼と大嘗祭に際しては、①即位礼正殿の儀、大嘗祭大嘗宮の儀の期日が定まると、まづその期日の奉告を、宮中三殿の賢所と皇霊殿・神殿に天皇陛下御親ら御告文で奏され、また②神宮並びに神武天皇山陵及び前四代の天皇山陵に勅使の発遣と奉幣が行なはれる。そして③即位礼と大嘗祭ののちに天皇陛下御親ら神宮並びに神武天皇山陵及び前四代の天皇山陵に親謁される。
 これらを勘案すると、四月三十日の御譲位(退位)以前に斎行されるのが望まれる祭典は、次の四祭が考へられる。なほ、これらは旧皇室祭祀令十九条一項「皇室又は国家の大事を親告する祭典」(準大祭)によることとなる。
①賢所及び皇霊殿神殿に御譲位期日奉告の儀
 天皇陛下が親告される。明年一月七日の「昭和天皇三十年式年祭」以降とならう。
②神宮及び神武天皇山陵及び前四代の天皇山陵に勅使発遣、奉幣の儀
 宮中三殿へ親告され、神宮・山陵へ勅使を発遣されて奉幣される。
③神宮及び神武天皇山陵及び前四代の天皇山陵に親謁の儀
 これに際してはともに剣璽御動座がなされるべきこととなる。
④賢所の儀及び皇霊殿神殿に親謁の儀
 御在位中の最後の祭典として天皇陛下御親ら御譲位(退位)のことを奉告される。なほ斎行日は、退位礼正殿の儀が行はれる御譲位(退位)当日がふさはしく、あるいはそれ以前もありえよう。
(2)御譲位(退位)に伴ふ儀式
 ○退位礼正殿の儀
 本儀は、明治以降にあって旧登極令に定めはなく、新儀となり、次第・内容など慎重な検討が求められる。
 「基本方針」では天皇陛下の御譲位(退位)の日となる四月三十日に、「天皇陛下の御退位を広く国民に明らかにするとともに、天皇陛下が御退位前に最後に国民の代表に会われる儀式として」行はれる。これは、「即位後朝見の儀」と「即位礼正殿の儀」とを勘案して新定されたかと推定される。
 そして、「日本国及び日本国民統合の象徴である天皇陛下の御退位に伴う式典であることから」、国事行為である国の儀式として行はれることとなったことは妥当である。
 なほ、本儀は前述の「賢所の儀及び皇霊殿神殿に親謁の儀」が三十日に斎行されたのちに行はれることを望みたい。
(儀式の概要)
 本年二月の第二回「式典準備委員会」で、天皇陛下が正殿松の間に剣、璽及び国璽・御璽とともにお出ましになり、そののち「国民の代表として総理が皇室典範特例法の定めにより天皇陛下が御退位されることを申し上げ、天皇陛下に感謝を述べるとともに、天皇陛下から国民に対しておことばを賜ることとする。」とされたことは理解できる。
 そして「剣璽」が、今上陛下の最後の「国の儀式」である「退位礼正殿の儀」により御譲位(退位)されるに際して御動座されることになったことは然るべきである。
 なほ御装束は「即位礼正殿の儀」にならひ、黄櫨染御袍で臨御されるのが望まれる。
(悠仁親王殿下の供奉が望まれる)
 本年四月三日の閣議後記者会見で菅内閣官房長官は、「未成年皇族であられる悠仁親王殿下の御出席については基本方針を踏まえつつ各儀式の趣旨及び内容に基づき関係省庁で検討を進め、今後秋に設置をされます式典委員会において適切に判断をしてまいりたい」と今後の検討に委ねてゐる。
 これについて旧登極令の「践祚の式」での「剣璽渡御の儀」・「践祚後朝見の儀」では皇族が供奉することを定めてゐるが、成年か否かは示されてゐない。これが初めて適用された大正天皇の御代始諸儀にあたり、「剣璽渡御の儀」・「践祚後朝見の儀」では未成年皇族の供奉はない。しかし、皇太子裕仁親王(十四歳)は四年後の即位礼当日の「賢所大前の儀」に拝礼、「紫宸殿の儀」に参列された。これは、将来に備へてなされたとされてゐる。
 これらを勘考して、このたびは、未成年ではあられるが、皇位継承順位第三位(明年五月一日以降は第二位)の悠仁親王殿下(来年九月六日に満十三歳)が将来に備へて、皇位継承の諸儀(退位礼正殿の儀・剣璽等承継の儀・即位後朝見の儀・即位礼正殿の儀、大嘗祭大嘗宮の儀など)に供奉・参列されることはきはめて有意義と考へられる。

[B]御即位に伴ふ儀式・祭典
(1)御即位に伴ふ儀式
 ○剣璽等承継の儀
 内閣「基本方針」では、平成の時と同じく「御即位に伴い剣璽等を承継される儀式として」、「国事行為である国の儀式として」行はれることは適切である。なほ、こののち宮中三殿に御践祚(即位)の奉告を親祭されることが望まれる(後述、参照)。
(参列される皇族)
 本年四月三日の閣議後記者会見で菅内閣官房長官は、「剣璽等承継の儀の参列皇族について、平成の前例を踏襲し、参列される皇族は男性皇族のみになる、と考えている」と答へた。歴史・先例と旧登極令とを踏まへて然るべきこととなる。
(ふさはしい御装束を)
 天皇陛下の御装束は、旧登極令による大正天皇以降の例は崩御による喪中のためモーニングコート(黒タイ・喪章)であったが、このたびは重儀にふさはしい御装束(黄櫨染御袍)が望まれる。
 ○即位後朝見の儀
(実施日)
 「基本方針」では、本儀が行はれる日は「剣璽等承継の儀」と同日とされる。しかし、近代以降の例では大正天皇の時は践祚翌日、昭和天皇の時は三日後、今上陛下の時は二日後のそれぞれ午前であり、同日の例はない。
 同日とする理由を推測するに、このたびは御在位中の「御譲位(退位)」による「剣璽等承継の儀」と「即位後朝見の儀」であることを考慮したためであらうか。さうであれば、同様な理由による、今回にふさはしい次第・内容が他の儀式・祭典でも考慮されて然るべきである。
(儀式の次第)
 平成の時と同じく、天皇陛下の「おことば」が述べられ、そのあと内閣総理大臣から天皇陛下への「奉答文」がなされよう。そして、「おことば」では、先例を踏まへて前天皇陛下に「上皇」、前皇后陛下に「上皇后」の尊称を奉られることがふさはしいと考へる。
(剣璽御動座の復活を望みたい)
 前回の本儀ではなされなかった剣璽の御動座が、旧登極令にならって復活されることを望みたい。
 前回、剣璽御動座がなかった理由を、『平成大礼記録』(宮内庁・平成六年)では「旧制下では、践祚後朝見の儀において剣璽の御動座があったが、即位後朝見の儀においては、昭和21年6月の千葉県下の御巡幸以降,剣璽は御動座しないことが原則となっていること、天皇陛下が剣璽を承継される剣璽等承継の儀が既に行われていること等を総合的に勘案して剣璽の御動座は行わないこととされた。」と説明してゐる。
 しかし、この剣璽御動座は昭和四十九年に式年遷宮後の神宮親謁に際して復活し、その後、平成二年十一月の「即位後朝見の儀」以降では、同年十二月に、即位礼と大嘗祭が執り行はれたことを奉告遊ばされる「即位礼大嘗祭後神宮親謁の儀」、また平成六年、同二十六年にも遷宮後の神宮親謁に際して実施されてゐる。また明治の旧皇室祭祀令附式には、宮中三殿での御親祭(大祭)ならびに神嘉殿新嘗祭で剣璽御動座がある定めである。
 これらから現在、「御動座しないことが原則」とはいへず、また「総合的に勘案」したとしても、天皇陛下としての重要な儀式・祭典には御動座されることが望ましい。ましてや、この「即位後朝見の儀」は皇位継承に伴ふ最重要の「国の儀式」であり、また今回、「剣璽等承継の儀」と同日に同じ宮殿松の間で本儀が行はれ、そして「退位礼正殿の儀」では前記のやうに御動座があることからしても、これがなされることは当然と考へる。復活を強く望みたい。なほ同じく、前回なされなかった「即位礼及び大嘗祭後、神武天皇山陵及び前四代の天皇山陵に親謁の儀」でも復活を望みたい。
○即位礼正殿の儀
 「基本方針」で十月二十二日と決定された。大嘗祭との間が大正以降の先例よりは隔たるが可とされよう。なほ次第・装束等については、前回の適切な反省を踏まへ、全体的に調和の取れたあり方が望まれる。
(2)御即位に伴ふ祭典
○賢所の儀及び皇霊殿神殿に御践祚(即位)奉告の儀
 このたびは、前帝の崩御による御践祚(即位)ではないゆゑに服喪のことはなく、御践祚(即位)奉告の祭典は、旧登極令によった前回までの掌典長による御代拝・御告文ではなく、天皇陛下御親祭で、「剣璽等承継の儀」ののち、引き続いて斎行されることがふさはしく、ご斎行を是非とも望みたい。
 なほこののち、新元号が決定、公布されることが想定される。
○そのほかの祭典
 先例と同じく、次の祭典等が五月一日の御即位以降、斎行されよう。
・賢所の儀、皇霊殿神殿に奉告の儀(第二日の儀)
・賢所の儀、皇霊殿神殿に奉告の儀(第三日の儀)
・賢所及び皇霊殿神殿に即位礼・大嘗祭期日奉告の儀
・神宮、神武天皇山陵及び前四代の天皇山陵に勅使発遣、奉幣の儀
・即位礼当日、賢所大前の儀、皇霊殿神殿に奉告の儀
・大嘗祭当日、神宮に奉幣の儀、賢所大御饌供進の儀、皇霊殿神殿に奉告の儀
・大嘗祭大嘗宮の儀
・即位礼及び大嘗祭後、神宮及び神武天皇山陵及び前四代の天皇山陵に親謁の儀
・即位礼及び大嘗祭後、賢所及び皇霊殿神殿に親謁の儀、賢所御神楽の儀
○大嘗祭
 大嘗祭大嘗宮の儀の期日は、明年十一月十四、十五日に実施する方針を宮内庁が三月末に発表してをり、その挙行については本年四月三日の「閣議口頭了解」で、「「即位礼」・大嘗祭の挙行等について」(平成元年十二月二十一日閣議口頭了解)における整理を踏襲し、今後、宮内庁において、遺漏のないよう準備を進めるものとする。」とされる。前回と同じく「皇室の公的行事」として適切な準備が進められ、恙なく斎行されることを切に祈念する。
○大礼後儀
 前述のやうに、即位礼正殿の儀と大嘗祭大嘗宮の儀ののちの「神宮並びに神武天皇山陵及び前四代の天皇山陵に親謁の儀」にあっては、ともに旧登極令によって剣璽御動座のもとに斎行されるのが望まれる。

【内閣「基本方針」の問題点】 「基本方針」によると、平成三十一年四月三十日に御譲位(退位)の儀式である「退位礼正殿の儀」を、翌五月一日に御即位(践祚)の式として「剣璽等承継の儀」と「即位後朝見の儀」とを、日を別にして実施することとしてゐる。
 これにより、御譲位(退位)・即位の儀式は皇室の歴史・伝統を踏まへて「同日・同じ場所で一連に行はれるのがふさはしい」とする本会の基本となる見解は容れられないこととなった。
 この、御譲位(退位)の儀と即位の儀との日を分かって行ふとする「基本方針」の意図は、このたびの皇位の継承は、天皇陛下がその意思により皇位を譲られるといふものではなく、「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」に拠り「退位」されるのであり、天皇が皇位を譲り渡すやうな形式は、「天皇の地位は国民の総意に基づく」と定めた憲法第一条との整合性を説明するのが難しいとして、その区別を儀式の上で示すためかと推測される。これは、憲法との整合性を優先したもので、皇室の伝統的な皇位継承儀式から著しく外れることは遺憾であることを表明しておきたい。
以上