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論説 後継者問題 神職とは何かを考へ直す

平成21年04月13日付 2面

 「社家」とは、本来は特定神社の神職を代々世襲してきた家柄を指す用語であった。しかし戦前・戦後を通じ、神職となった家の子孫が神職を世襲する例が増えたことから、現在ではこれらの家も広義で「社家」と称するやうになってゐる。祭祀の継承や神社の公共性などを考慮すれば神職の世襲制には利点も欠点もある。つまり、神職の後継者をめぐる問題は、明治期の神社制度改革以来、今日まで続いてゐるといっても過言ではないのだ。
 神職の任用や養成、研修の側面も含め急速な少子高齢化が進む我が国にあって、神社の後継者問題はどのやうな状況にあるのだらうか。
       

 本紙では第二九六八号(三月九日付)及び今号で神職の後継者をめぐる実態と意識の調査結果を報道してゐる。
 これらの調査は、新潟・山口・埼玉・山形の各県で奉職する宮司などに対して、後継者や兼職の有無、また今後の対策などについて質問したものである。
 後継者神職が「ゐる」と回答した宮司は、全体で七三・五%、「ゐない」との回答は二六・三%で、都市部・農村部などでの格差は見られなかった。
 宮司の兼職率は全体で四二・五%。その後継者の兼職率は六八・三%で、経済的な理由から、いづれの県でも「他職と兼業」する神職が多いことがわかった。
 一方、後継者のゐない宮司に、その理由を尋ねたところ、「子弟がゐない」が三三・三%、「資格未取得」二七・六%、「子弟に継ぐ意志がない」二二・〇%、「あへて継がせようと思ってゐない」二一・七%などとなってゐた。「あへて……」と回答した宮司の理由としては、「神職では経済的に生活が成り立たないから」が六割を超え他を大きく上回ってゐた。
 後継者問題に対する今後の対策については、「いづれ考へたいが今はまだ別に何もしてゐない」が約七割と圧倒的だった。
       

 各調査では、これらの集計結果を基に県内神職による座談会なども実施されてをり、各項目についてさまざまな意見が述べられてゐる。「後継者の有無」については、深刻な宮司の高齢化、神職家の少子化や晩婚化、未婚などの問題も指摘され、社家だけでなく地域全体で神職を養成することの大切さを訴へる意見も聞かれた。その一方で、後継者問題は社家それぞれの「家庭の問題でもあり、他の神職が深く立ち入れない状況もある」といふ意見もあった。
 兼務・兼業の問題では、過疎地は就業の場が少なく、兼業も難しい状況にあるといった根本的な問題をはじめ、「他の職業を知ってゐる分、ものの見方や考へ方に広さができる」など兼業の「良さ」を指摘する意見も聞かれた。
 神社本庁では平成八年に設置された神社基本問題研究会で、神職の世襲について以下の通りまとめた。
「神社は氏子崇敬者によって支へられてをり、その結束上に神職がある。神社の護持は、神職の姿勢に負ふところが多く、社家の存在が後継者教育を容易ならしめ、地域との関係付けを円滑にしてきた。従って神社の継承は神職子弟の教育如何にもかかってくる。また一方に於て、広く神職任用の途を積極的に開く必要性も指摘できる」と、世襲による神職の後継者教育を有用としつつも、神職任用の門戸を広げる必要性を指摘した。
       

 社家出身の神職は、生まれてすぐから神恩を身近に蒙りつつ境内で育ち、生涯をかかる御社で終へる。御祭神に対する信仰が格別であり、親しみ深いものであることは理の当然であらう。しかし、世襲制を悪用した一神職家による独占や私物化するかのごとき実例があることから目を背けてはなるまい。
 神職の後継者問題は神社を取り巻く地域社会の現状や、氏子崇敬者の現実的課題などといったさまざまな要素が複雑に絡みあってゐると想定される。その対策も一朝一夕にはいかないだらう。
 後継者問題の本質には「神職とは何か」といふ根源的な問ひかけがあるといへる。神社界の行く末を安定化せしめることが、ひいては我が国の安定に繫がるといふことは間違ひないだらう。神職の後継者問題は地域社会の、国家国民に繫がってゐるのだといふ気概をもって、我々はこの課題に挑まなければならない。
平成二十一年四月十三日