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杜に想ふ 日本の心 山谷えり子

令和6年04月01日付 5面

 桜前線が北上し、野原ではツクシやヨモギが春の歌を歌ひ始めた。桜は日本の美しさとともに一年の豊穣を願ふ祈りを国中に広げ、新生活をスタートさせる子や若者を祝福してゐるかのやうである。
 ところで、三月十日(現地時間)には「君たちはどう生きるか」(アニメ)と「ゴジラ-1.0」(特撮)の二作品が米国アカデミー賞を受賞し、日本の新しい文化の力を感じさせた。また、八十カ国以上で翻訳されてゐる「ドラゴンボール」などのマンガを次々とヒットさせ、六十八歳で亡くなられた鳥山明さんの死にはフランスのマクロン大統領をはじめ、世界の要人たちが次々と追悼のメッセージを出すなど、今さらながら日本のマンガ、アニメ、映画などコンテンツのもつ力を感じてゐる。
 私は現在、自民党の文化関係の会長を務めてゐるが、仲間たちとプロジェクトチームを作り、ここ何年間か伝統文化の継承と発展とともに、かうした新しいコンテンツの支援、海外展開、拠点づくりに取り組んでゐる。
 マンガやアニメにあまり接してゐない方も多いと思ふが、実は、私も少々苦手だったのだが、今やマンガ、アニメ、映画、ゲーム等のコンテンツ産業はアメリカ五十七兆円、中国二十七兆円、日本十三兆円と成長産業となり、わが国産業の輸出額規模では鉄鋼の四・一兆円を超えて、コンテンツ産業は四・五兆円と半導体の四・九兆円に迫ってゐる。
 日本のコンテンツが世界の多くの人々を何故こんなにも惹きつけるのかといふ分析はさまざまあるが、鳥山明さんの死に接した世界のファンの「悲しみの表現が深い」「突き抜ける先の希望の光が他と違ふ」「ドラゴンボールの孫悟空が乗る“筋斗雲”は心の清らかな人だけが乗れる設定。をかしみや清らかさが魅力」などの声に耳を傾けながら、私は日本の神仏習合の長い歴史と文化、赦し、祈り、独得の死生観、スーパーヒーローによる善悪二元論を越えた複雑性と調和、つまり日本文化のユニークさに改めて感じ入ってゐる。
 ネットなどの力が強まってゐる昨今、世界は分断と対立、好きと嫌ひなどに分けられていきがちだが、日本の文化は神話にみられるやうに多くの事象を陽と陰の両面を同時に内包する霊的な力を持ち、人の心を解放へと誘ふやうな特質がある。祈りの心で暮らしてきた日々や、日本最古の漫画とも称される「鳥獣戯画」にみられるやうなセンス、をかしみ、共生の心のつらなりが、世界に普遍性をもって伝はってゐるのであるとしたら嬉しいことである。先端の思想、芸術性を匠の技によって表現してゐるとも言へるかもしれない。
 大手出版社ではマンガの翻訳体制を対象八十カ国から百カ国に向けて整備中といふ。日本のコンテンツが世界市場を駆け回り、日本の心である清明さやダイナミズムが伝はればうれしいことである。
(参議院議員、神道政治連盟国会議員懇談会副幹事長)

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