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論説 卒業式にあたり 神職養成の課題と期待

令和6年04月01日付 2面

 令和六年も気付けば、もう四月である。さる三月十八日には皇學館大学で、同二十日には國學院大學で、それぞれ卒業式が挙行された。
 今春の卒業生の大半は令和二年四月、つまり新型コロナウイルスの感染拡大が始まるなかで入学した学生たちである。卒業式の答辞のなかでも、初年度から疫禍のなかでいはゆる「オンライン授業」を受講したことなどが述べられてゐたが、大学教育においてインターネットを活用した遠隔型の授業が本格的に導入された年の入学者ともいへる。四年間の大学生活において、感染状況の収束にともなひ通常通りの授業が再開されるなかで、対面型の講義や演習、さらには課外活動の意義やありがたさを実感したことであらう。
 まづ以て疫禍といふ困難のなかで大学生活を送り、このたび社会へと旅立つ卒業生たちの前途が希望に満ちたものであることを祈念したい。


 疫禍をほぼ乗り越えた今、皇大・國大両大学を含めた大学教育の上で最も深刻な問題の一つが、急速に進む少子化への対応ではなからうか。
 二月二十七日に厚生労働省が公表した人口動態統計速報によれば、昨年一年間の出生数は七十五万八千六百三十一人で、過去最少となった前年からさらに四万千九十七人の減少となった。平成二十九年に国立社会保障・人口問題研究所が公表した「日本の将来推計人口(平成二十九年推計)」では、令和五年の出生数を八十六万人と推計してをり、この七年前の予想を遙かに超える形で出生数が減少してゐることがわかる。
 少子化は国内全体で取り組むべき課題として各種メディアでもたびたび報道されてゐるが、もちろんその影響は大学にも及ぶ。少子化にともなふ大学志願者・入学者の減少は、神職養成を担ふ両大学の維持・経営にも深刻な影を落とすことはいふまでもない。さらに両大学における入学者、神職資格取得者の減少は、斯界における後継者の問題にも直結することを改めて認識しておかなければならないだらう。


 さらに大学教育における新たな問題として、「Chat(チャット)GPT」に代表されるやうな「生成系AI」(人工知能)の普及がある。
 急速に技術革新が進む生成系AIによって、我々の暮らしがさらに便利で豊かなものになる可能性がある一方で、いづれAIが人間の仕事の多くを代替するやうになるといふ「AI失業」への懸念なども指摘されてゐる。大学においても教育・研究そのものの根本的な意義が問はれるやうな時代になってゐるといへよう。
 また大学における神職養成との関はりでいへば、祭式作法を学ぶ授業や神社での神務実習などを除き、学識認定による単位取得を主とすることから、学生が生成系AIを活用することの影響も考へておかなければならない。実際、三月に全国大学生活協同組合連合会が公表した「第五十九回学生生活実態調査概要報告」によれば、大学生の三割ほどが生成系AIを継続的に使用してをり、その利用目的は二二・一%が「論文・レポートの作成の参考に」と回答(選択肢からの複数回答)してゐる。ただしインターネット上の厖大な情報はまさに玉石混淆であり、AIによって生成される文章の利活用に細心の注意が必要なことはいふまでもない。


 疫禍のなかで大学生活を始めた今春の卒業生たち。対面で直に話をすることのありがたさを実感するとともに、情報通信技術の急速な普及など、さまざまな社会変化のなかでの四年間だったといへよう。
 斯界においても皇大・國大両大学の卒業生を新たな奉職者として迎へてゐる。地域社会のなかで氏子や総代との協力・連携のもとで神社の護持運営に努める神職として、豊富な知識と正確な情報を持ち、地元の人々と直接関はりながら、日々の神明奉仕に努めることが求められよう。生成系AIなどを含めた新たな技術の活用とともに、人々との対話を前提とする協力・連携のなかでこそ、少子化をはじめとする地域社会の諸課題を乗り切る方途も見えてくると信じるものである。
 課題が山積するなかではあるが、これからの大学教育、そこでの神職養成、そして疫禍といふ特殊な環境のなかで学びを深めた学生たちの今後の活躍に期待したい。
令和六年四月一日

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