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論説 通信員アンケート 神社のあり方を考へる契機に

令和6年04月08日付 2面

 本紙三六七四号(三月十八日付)に、「全国通信員に聴く 正月三が日の社頭から」との見出しでアンケートの調査結果に関する報告記事が掲載された。地方総局にあたる都道府県神社庁を通じて委嘱した「通信員」を対象に、正月三が日の参拝者数や祈祷件数など今年の初詣の状況を尋ねたものだ。
 新型コロナウイルス感染症が五類に引き下げられてから初めて迎へた今年の初詣。疫禍を乗り越えて従前通りの穏やかな迎春となることが広く期待されてゐたのではなからうか。しかし元日夕刻に「令和六年能登半島地震」が発生し、石川県を中心に甚大な被害が生じるなかで異例の年明けとなった。
 改めて被災地の復旧・復興を祈念するとともに、アンケート調査から垣間見える各地の様子を確認したい。


 今年の正月三が日は、昨年より参拝者が増えたとの回答が多く、以前から見られた疫禍の恢復傾向がさらに顕著になった印象のやうだ。ただ能登半島地震の影響により、北陸地方では「二日以降の参拝者数は例年よりもかなり落ち込んだ」、それ以外の地域でも「若干の自粛ムードを感じた」との記述も見られた。
 疫禍対策としてのマスク着用をはじめ、アルコール消毒液の設置、手水舎の柄杓・鈴緒の撤去、授与所等の飛沫防止シートによる遮蔽などは、地域の状況や神社における考へ方によって継続・中止の判断が分かれてゐる。また祈祷に関しては、電話やウェブを介した事前予約が増加したやうだ。疫禍のなかでの混雑緩和を目的に予約制を取り入れ、前年の参拝者に対して新年祈祷の案内文・申込書を郵送したといふ事例などは、平時における祈祷勧奨にも効果があるだらう。
 一方で、直会の中止、新年行事の参列者制限・規模縮小などについて、従前通りに戻したくても戻せないといふやうな難しい状況も報告されてゐる。地域との関係性の稀薄化、役員・総代の世代交代など事情はさまざまなやうだが、以前からの課題が疫禍における対応をきっかけとして顕在化したものともいへよう。さうしたさまざまな変化と影響を確認・共有し、その対策を広く検討するやうな取組みも必要なのではなからうか。


 このほか自由記述欄において、必ずしも初詣に限らない内容を含めてさまざまな意見が寄せられた。かねて懸案となってゐる硬貨入金手数料やキャッシュレス決済に関しては、アンケート用紙の設問文に例示したこともあって数々の言及があったが、それ以上に目立ったのが過疎化や少子高齢化に関する記述だったといふ。
 硬貨入金手数料については、以前から地元商店に呼びかけ釣銭用に両替する取組みがあり、また慈善団体への寄附といふ案も見られたが、いづれにしても根本的な解決は難しい。さうしたなかで、キャッシュレス決済の導入を時代の流れとして受け入れざるを得ないといふ雰囲気も少なからず感じられた。
 過疎化や少子高齢化に関しては、「氏子数が責任役員数を割ってゐる」「兼務社が増え祭事に日時が取られると、生活の基盤となる職業に就くことができずたいへん」などと厳しい現実が紹介されてゐる。神社本庁においても過疎地域神社活性化推進施策や不活動神社対策特別推進事業などに取り組んでゐるが、もとより一様に神社・神職といっても実態は千差万別で、地域の状況や氏子の意向なども相違するなかで、それぞれ異なる対応が必要となる。さうした個々の対応について、神社本庁をはじめ神社庁や支部においていかなる支援ができるのか。斯界全体として考へていくことが求められよう。


 かねて本欄において指摘してきた疫禍における緊急的な措置の継続の是非をはじめ、祭礼行事について従前通りに戻したくても戻せないといふ状況、また硬貨入金手数料やキャッシュレス決済、そして過疎化や少子高齢化など、アンケート調査による現場の生の声からは各地の神社において日々直面する数々の課題、そこでの問題意識の一端を窺ひ知ることができる。
 一年を通じて神社に最も関心が集まるともいへる初詣。その状況を確認することで、疫禍後の対応に限らず今後の初詣、そしてこれからの神社のあり方を考へていく契機ともしたいものである。
令和六年四月八日

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