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論説 奉職状況 奉職・養成めぐる課題の共有を

令和6年04月22日付 2面

 文部科学省と厚生労働省によれば、今春の大学(学部)卒業者の二月一日時点での就職内定率は九一・六%となり、同時期の調査結果が残る平成十二年以降で三番目の高さになったといふ。
 学生たちの就職は、いはゆるバブル崩壊後の就職氷河期やリーマンショックの余波など、当時の社会・経済の状況に左右されるところも少なくない。今春卒業者の就職内定率については、新型コロナウイルス感染症の収束による求人数の恢復などを含め、企業の採用意慾の昂まりが影響してゐるやうだ。斯界においても、皇學館大学・國學院大學で神職資格を取得して卒業した学生のうち、皇大で七十七人、國大で百二十八人の合計二百五人が神職・事務員・巫女などとして神社に奉職し、すでにこの春から神明奉仕に勤しんでゐる。
 まづ以て、このたび大学を卒業した学生の多くが無事に職を得て、社会人として新たな一歩を踏み出したことを慶ぶとともに、その前途の順調なることを祈念するものである。


 かねて斯界における奉職状況に関しては、女性の神職としての採用、年齢が高い学生の奉職先、奉職希望先の地域的な偏りなど、さまざまな課題が指摘されてきた。また昨今は、せっかく神社に奉職しても、短期間で退職してしまふ早期離職の問題も目立つやうだ。この早期離職については、それぞれに個別の事情・背景があって安易には論じられないのだらうが、奉職者にとって、また採用した神社にとっても極めて不幸なことといへる。
 さらに例年、皇大・國大の両大学には全国の神社から資格取得者を上回る多くの求人が寄せられてをり、結果的に各神社において必要としてゐる数の奉職者を確保できないといふ事態が続いてゐる。ただ、さうした状況は必ずしも大学における教職員の対応、もしくは学生たちの志向などの問題として簡単に割り切れるものでもないだらう。現状における課題、その原因を把握しながら、それぞれ対応に努めたい。


 わが国においては近年、物流業界の「二〇二四年問題」に象徴されるやうな労働環境の問題や少子化の加速にともなふ人手不足が大きな課題の一つとなってゐる。政府でも「異次元の少子化対策」とのかけ声のもと児童手当の給付拡充など各種施策を推進してゐるが、晩婚化や未婚化などもいよいよ顕著となるなかで、現在の慢性的な少子化に対しては特効薬がなかなか見つかりさうにないといふのが現実だらう。
 もちろんさうした状況は斯界においても例外ではない。このまま少子化が進んでいけば、皇大・國大の両大学をはじめとする養成機関の入学者、ひいては資格取得者・奉職希望者がいづれも減少していくのは避けられず、神社における人手不足の問題も加速度的に深刻さを増すだらう。
 少子化については神職養成や奉職状況、ひいては神社界の近い将来にも大きな影響を及ぼす喫緊の課題として広く問題意識を共有していく必要がある。


 奉職状況をはじめ、その前提となる神職養成をめぐっては、少子化が進むなかでの人手不足に限らず、学生の大学進学・資格取得・奉職に関する意向の変化、入学定員の上限など大学運営との兼ね合ひ、入学者の確保と最低限の学力・知識の担保、神社の実情や神明奉仕の理想と現実――等々さまざまな問題が複雑に絡み合ふやうに存在する。もちろん、これまで斯界がさうした問題に無関心であったわけではなく、各種の審議会や委員会においても検討等が重ねられてきたのである。
 また神社本庁では例年、神職養成機関高等課程連絡会や神職養成機関教務主任会議を開催してきた。今後は、例へば階位検定講習会を実施してゐる神社庁や、通信制の大阪国学院なども含めた関係者が一堂に会し、現状・課題を共有した上で対策を検討するやうな取組みも必要なのではなからうか。さらにその際には、昨今懸案となってゐる過疎地における小規模神社の護持運営や後継者確保の問題などを見据ゑた議論にも期待したい。
 課題は多岐に亙り、その解決は容易ではないが、まづは神社界を挙げた対応が求められることを再確認するとともに、奉職先としての斯界が、そして各神社での神明奉仕が魅力的なものであるやう努めたいものである。
令和六年四月二十二日

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