日本を知る 小林秀雄「本居宣長」をよむ 今野真二著
令和8年03月09日付
6面
着想の鋭さと探求の困難さ 本書の著者は、日本語学者であり、昨今の日本語が大きく変化してきてゐることに、危惧を抱きながら本書の筆を執ったことが、「おわりに」に明かされてゐる。
その時、サンプルとして小林秀雄の『本居宣長』を選んだことが、本書の着想の鋭さを物語ると同時に、その探求の困難さをもあらかじめ用意してゐた。
小林と世代の近いドイツ文学者の高橋英夫が、小林の評論の飛躍と教祖性を「芸術としての条件の充足は、信仰の条件の充足そのものなのだ」と剔抉して見せてゐる点をきちんと拾ひあげてゐる点が注目される。この点こそ、宣長や小林秀雄のテキストを遙かなものとして感じさせる一番の理由であると思ふ。一方で、本書が言語・表現と神祕性やカリスマといふ科学に最も馴染まないテーマを現前化させながら、その前で佇んでゐる印象を受けるのは洵に残念なことである。蛮勇を持った知的膂力が、これらの対象に立ち向かふべきであることを結果的に知らしめたことこそ、本書の最大の効用であると思へてならない。
〈税込5280円、みすず書房刊。ブックス鎮守の杜取扱書籍〉
(防衛大学校教授・井上泰至)
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