杜に想ふ
デジタル化の波 山谷えり子
令和7年05月05日付
5面
五月の緑の風に吹かれると、心弾む童謡が次々と思ひ出される。「夏も近づく八十八夜、野にも山にも若葉が茂る……」の「茶摘」の歌。「柱のきずはをととしの、五月五日の背くらべ……」の「背くらべ」の歌。「うの花の、にほふ垣根にほととぎす、早も来なきて……」の「夏は来ぬ」の歌など、人々の暮らしの姿が伝はってきて嬉しくなる。スマホで検索すると、どの歌もアニメや風景などを背景にコーラス動画が聞こえてくる。中学生の孫と視聴しながら、たとへば「夏は来ぬ」の二番「さみだれの、そそぐ山田に早少女が、裳裾ぬらして玉苗植うる、夏は来ぬ」など説明しにくい風景もたちまち現れるので感動した。「便利だなぁ」と思ひはしつつ、同時にふとデジタル化がどこまでどう進むのかといふ心配も起きてくるのである。
といふのも、昨年九月に中央教育審議会に「デジタル教科書推進ワーキンググループ」が設置され、今年二月にデジタル教科書を正式な教科書とする方針が中間報告でまとめられたのである。令和八年度中の制度改定、令和十二年度の使用を目指すといふ。
デジタル教科書は現在すでに小五から中三までの英語と算数・数学の一部に本格導入されてゐる。英語の音声や数学の回転図形などの使用で、教育現場で好評だとも聞く。さらに音楽や理科の実験、家庭科の調理実習など有効な面もでてくるだらう。しかしながら、それを見て歌ったり、体を使っての実習をしなければ、デジタルで見ただけで終はりでは決して学んだことにはならないとも考へる。
紙の教科書か、デジタル教科書か、その両方を組み合はせたハイブリッド型利用かは各教育委員会が選ぶといふ方針も示されたが、ぜひとも今後、実証データと現場の声を丁寧に聞きながら検討し続けてほしいと思ふ。
教育のデジタル化は、今、先進的に進めた諸国で見直しの動きが進んでゐる。スウェーデンでは約十年間進めた結果、問題が大きいとして、一昨年より紙の教科書の再配布を義務づけた。視力が低下したり姿勢が悪くなったりする、デジタル化では記憶の定着が困難、関係ないアプリや動画を見て学力低下を招きかねない、先生のスキルの差と端末の不具合……などまだまだ多くの課題がある。このところ、私は文部科学省の担当者と教科の特性や、児童生徒の発達段階などを踏まへ、前のめりにならないやうにと意見交換をしてゐるところである。
こども家庭庁は二月、小・中学生、高校生のインターネット利用時間が、平日の一日平均で初めて五時間を超えたとの調査結果(速報)を発表した。スマホの使ひすぎは脳の発達に悪影響を及ぼすといふ研究もある。スマホやタブレットと子供たちの適切な付き合ひ方を、研究者、教育者、保護者は真剣にとらへ、子供たちの未来のために戦はねばならないと思ふ。
(参議院議員、神道政治連盟国会議員懇談会副幹事長)
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